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DJが全てを失ったとき

出番の15分前、「あれ? 俺のDJバッグ見てない?」

Mixmag Japan | 27 February 2018

色とりどりのダンスミュージック・ファンが毎週末パーティに通う傍で、暗闇に乗じ、平和的で、時には純粋すぎるコミュニティの面々から搾取するコソ泥たちの存在は、残念ながら事実だ。

移動と移動との間に人混みにまみれ、気が散る要素が蔓延した空間の中に身を置くことが日常的なDJが、最も被害に遭いやすい立場にあるのもまた残念な事実だ。ノートPC、旅行道具、パスポート、そして各種の高額な音楽機材は常にコソ泥の標的となる。

始めたばかりの地元DJから国際的なスーパースターまで、あらゆるレベルのアーティストが様々な形で被害にあってきた。ニーナ・クラヴィッツ、ダミアン・ラザルス、グランドマスター・フラッシュ、Eats Everything、Umfang、ケリー・チャンドラー、マグダなど数え切れないほどの著名なアーティストたちが渡航先で私物を失う悲しみを経験している。

見知らぬコソ泥がDJのUSBメモリーやレコード、ヘッドフォンなどを盗むのはそれ自体、悲しくて残念なことだが、アーティストにとっては懐事情に、自信に、そしてクリエイティブなアウトプットに壊滅的な打撃を加えるイベントに発展することすらある。

今回、Mixmagでは、このようなトラウマに遭遇したことのある3名のアーティストに話を聞き、このような事件が精神に与えるダメージについて掘り下げた。

DAEDELUS

ロサンゼルスのエレクトロニック・シーンの大御所、アルフレッド・ダーリントン(aka Daedelus)は、前衛的なプロダクションとテクノロジーを駆使したパフォーマンスで知られる、21世紀初頭のLAオルタナティヴ・エレクトロ界における音楽的な革命を牽引したアーティストだ。

2014年にロサンゼルス市が企画した巨大な新年パーティに出演した際、バックステージに潜り込んだ犯人によって、アルフレッドはリュックを盗まれてしまった。「こういう事態を想定するというのは、経験したことがないとちょっと難しいんじゃないかな」とアルフレッドは説明する。「長年、僕に大きな力を与えてくれたリミテッド・エディションのMonomeの他に、次のオーストラリア・ツアーの必需品だったパスポートや私物などが全部盗まれたんだ。冷静な気持ちになんてなれず、深く傷ついたよ」。

新年の混沌の中、アルフレッドはクラブ内や周辺のエリアを午前6時まで探して回り、帰宅後もオンラインで探索を続けた。事件についてネットに投稿すると、すぐにファンたちから協力の声が広がった。ある者はそれぞれ近所の質屋をチェックするように呼びかけ、ある者は所轄の警察署に問い合わせることを呼びかけ、またある者は自分の機材を貸し出すと申し出た。「複雑な心境だったよ」とアルフレッドは回想する。「コミュニティの盛大なサポートは前向きな気持ちにしてくれたけど、一方で、心ない一人の行動によって、多大な迷惑がかかったり、普段共演する仲間たちのことまで疑ってしまう気持ちが芽生えることに、恐怖を感じたんだ」。

DJやアーティストは、音楽産業を蝕むメンタル・ヘルスに関する問題に常に晒されている。休む間もないツアー・スケジュールで寝不足も続き、日常的に薬物や良いパフォーマンスを提供することのプレッシャーに晒される中、ちょっと目を離した隙にDJ機材やその他の私物を奪われてしまうことの打撃は、音楽的な、クリイティブなモチベーションに大打撃を加える。

「こういう事件が起きると『何故この世界に身を置いているのか』ということを考えさせられるよ。『なんのためにやってたんだっけ?』ってね。『お金のため? それとも、もっと深い理由があったのだろうか?』 そうやって考えた時に、もっと深いことのためにやってきたってのを強く実感することができたので、これまで以上に強い気持ちを持って、活動を続けることができるようになったんだ」。

このような事態に備えるということについて、経験値の豊富なベテラン・ミュージシャンは、貴重なアドバイスを与えてくれることができた。「バックステージのスタッフとは、自己紹介もして、必ず会話するように心がけよう。いざ困った時だけ声をかけるんじゃなくてね。お互いに名前を知っていれば、なんらかの事態に陥った時に、ベストな解決策にたどり着けるはずだ」。

ROUTE 8

ダスティなサウンドに定評のあるLobster Thereminレーベルの中心的な貢献者、Route 8はLo-Fiハウスのブーム時にダンスマニアの注目を集め、彗星のごとく表舞台に躍り出たハンガリー人アーティストだ。

2015年の11月、Route 8はAsquithを引き連れて北米デビュー・ツアーの最初の経由地、デトロイトに足を踏み入れた。出番の後、プロモーターの車に機材を置いて軽食をとったところ、車上荒らしに遭遇した。真っ先に心配になったのはElektronの機材だったが、車内を調べてみたところ、他にもローランドのグルーヴボックスやFNRのコンプ、ヤマハのミキサー、マックブック、服、未発表曲の入ったハードディスク、そして父親のアナログ・カメラも無くなっていた。

その後Route 8は、予定していたライブセットを断念し、ツアーの残りをCDJで敢行することを余儀なくされた。「盗まれたシンセたちは、ずっと夢に見ていたセットアップだったんだ」と振り返る。「全部盗まれてしまった後は、ツアー中、もぬけの殻のような心境だったよ」。

事件を受け、Route 8は、高額な機材を持ち運んでのライブセットよりも、自身のDJ的な側面に注力するようになった。「事件から1年以上経ったけど、今でもシンセを持ち運ぶのはあまり好きじゃない。あのせいで、ライブセットを披露する機会が少なくなったよ」。

世界中のEletronファンたちに向けて、Route 8は語りかける。「荷物を持っている時は、まっすぐホテルに行かなきゃダメだ。車に荷物を置くなんて、ダメ、絶対。どうしても寄り道をするなら、シンセは肌身離さず持ってなきゃダメだよ」。

EPIC B

ブルックリン生まれのダンスミュージック・サブジャンル、FDMの創始者にしてRiddimレーベルからリリースを重ねるEpic Bは、ボーンブレイキング・ダンスホール・ミュージックを牽引する立場にすっかり定着したアーティストだ。

つい先日(2018年1月31日)、Lyftに乗車していたEric Bはその後の人生を大きく変えてしまう交通事故に遭遇した。かろうじて怪我は免れたEric Bだったが、すぐに事故現場に集まる悪党たちの存在に気づいた。銃を突きつけられたEpic Bは、iPhoneを2台と500ドルの現金、そして各種ステムファイルやプロジェクトファイルが保存されたコンピューター2台と複数のハードディスクを盗まれた。

「作りかけの音楽を全て盗られてしまったんだ。ゼロからの再スタートだ」と綴ってあるのは、事件後にEpic Bが立ち上げたGoFundMeのページだ。GoFundMeはこのような悲劇に見舞われたアーティストに数多く活用されており、FDMの創始者も1週間以内に目標金額の3000ドルを集めることができた。

「GoFundMeを使うのは複雑な心境だったよ」とEpicは語る。「少し申し訳ない気がしながらも、助けてもらう必要もあった。そして、友人や見覚えのある名前から全く知らない名前まで、シェアやドネーションの欄に登場するのを見ながら、感謝の気持ちでいっぱいになったよ」。

Mixmag編集部は、これまでの制作物の蓄積が一旦リセットされたことについて尋ねた。すると、未来を見据える眼差しで、Epic Bはこう答えた。「確かに、何年もかけて集めたサウンド・ファイルや、作りかけの楽曲はもう帰ってこない。でも、古いコンピューターやハードディスクに残っているデータ、そして友人からシェアしてもらえるものを合わせれば、原点に戻った気持ちにはなるけど、スタート地点としては充分な手応えを感じているよ。むしろ、今あるものに集中できる感じもある」。

良いダンスチューンを生み出すのは、決して簡単な作業ではない。時間をかけ、また、インスピレーションが湧くたびにコツコツと貯めてきたクリエイティブな努力の結晶を突然奪われてしまうのは、物理的なハードウェアを盗まれることよりも被害が大きいだろう。しかし、Epic Bは上の発言でも明確にしてくれた通り、大事なのはくじけずに前に進み続けることであり、まっさらになってしまった状態をいかにポジティブに受け止められるかにかかっているといえよう。

ダンスミュージックのコミュニティが、安全なスペースを築き上げ維持しようと最大限の努力をしていることは間違いない。しかし、それによってこのような事件が一切起きなくなると考えるのは、いささか夢見がちだろう。このような悲劇を未然に食い止めるには、プロモーターの、セキュリティの、参加者の、そしてアーティストを取り巻く全ての人の誠意にかかっており、また、アーティストの代わりになって用心するという行動にもかかってくる。

それでも、不測の事態は起こりうるのだ。だから、バックアップを取ることだけは、くれぐれも怠らないようにしよう。

「ある意味、盗まれるよりも痛いよ」とDaedelusは語る。「制作中に何か問題があってデータがなくなって、しかもバックアップがない。ある意味、盗まれてしまったのと一緒だけど、犯人は自分の怠惰なので、ある意味もっともっと辛い気持ちになるよ」。

 

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