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ヴァイナルの復興はダンスミュージック界にとって良い兆しなのか?

少し掘り下げてみたところ、事態はそんなに素敵なものではなかった

Mixmag Japan | 8 March 2018

既にニュースで何度か見かけているだろう。ヴァイナルのセールスが破竹の勢いで伸びているのだ。イギリスでの販売量は2000年以降のピークを迎え、2017年に1430万枚のセールスを記録した米国のマーケットは、12年連続で右肩上がりだ。否定することはできない。ヴァイナルは、復興を果たした。

今日に至るまで、ヴァイナルは、一つのシンボルとしてダンスミュージック・カルチャーと深く関連づけられ
ている。一度廃れたヴァイナルが予想外の復興を見せたことに、少なからずロマンを感じるのは簡単だ。表面的には、アンダーグラウンドなレーベルやDJたちにこのフォーマットが好まれるようになったトレンドは、ダンスミュージックにとってプラスに作用するように感じられる。しかし、より深く探ってみると、実態はそんなに素敵なものではなかった。

ヴァイナルへの興味の再燃が初めて確認された時から、資本家たちは早速動き出した。現在の如実なセールス増の背景にあるのは、実はメジャー・レーベルによるピンク・フロイドやビートルズの再販であり、エド・シーランやヒット映画のサントラのリリースなのである。都市型のショップもこの甘い蜜に群がり、アーバンアウトフィッターズなどのアパレル店がレコードの在庫を持つようになった。昨年は、ソニーが30年近いブランクを経てレコードのプレスを再開すると発表し、イギリスの大手スーパー、セインズベリーズはイギリス最大のレコード小売店であることを宣言した。しかし、インディペンデント系のショップやレーベルは、同じ恩恵を享受している訳ではない。

「諸手を挙げて喜ぶような話じゃないよ」と、非専門店での販売量によって生じたレコード・セールスの急増について語るのは、Kristina Recordsの創立者、ジェイソン・スピンクス氏だ。「こういう一時的なブームは、大概、産業全体にとって、プラス面を打ち消してなお打撃になるような、マイナスの余波もあるものなんだ。特に、インディペンデント系やアンダーグラウンド系の音楽や文化についてはね」。

メインストリームによるマイナスの余波の一例が、悪評の耐えないRecord Store Day(レコード屋記念日)だ。2007年に始まった同記念日は、本来「個人経営のレコード店とその文化を祝福する日」だったのだが、瞬く間に、量販店が再販盤を高値で売りさばく日に成り下がってしまった。2018年は、Kristina Recordsは同記念日に一切関与しないことにしている。

ペッカムのレコード・ショップ、Rye Waxも同記念日には参加しない。同店の副店長、ジョー・ハワード氏はこう語る。「ヴァイナル産業自体や、草の根的に支持してくれる個人経営店を記念する行事は欲しいけど、レコード屋記念日はすっかりメジャー・レーベルにハイジャックされてしまって、くだらないコンセプトの再販盤にプレス工場まで独占されてしまっている状態なんだ。これは、プレス工場の不足も影響してるけど、インディペンデント勢に対する思慮のなさも、この記念日を台無しにしてしまってると思うよ」。

昨年、Rye Waxは公式な行事への参加を避け、”The Run Out”と題された記念日の自分たちによるバージョンを決行した。同店はHyperdub、Principe Discos、Rhythm Section、Where To Now?、Phantasy、FTDなど、お気に入りのレーベルに限定チューンを提供してもらい、地元のプレス業者Peckham Cutsに依頼し、ダブプレートをカットした。「イベントは大盛況で、本来のコミュニティとしてのヴァイブスを放ってたよ。今年はもっと盛大にやる予定なので、チェックしてくれ!」とジョーは語る。

ハワード氏が言及したプレス工場の問題は、レーベル運営のスピード感に影響してくる。現在も稼働中の限られたプレス工場はいずれもキャパオーバーで営業しており、プレスの納期は、10年前と比べて4週間程度から3ヶ月へと飛躍的に伸びた。加えて想定外の遅延も珍しいことではない。

さらに、ヴァイナル・ビジネスに参入するための経済的な障壁も、レコード店にとってもレーベルにとっても、どんどん高くなってきている。プレス費と商品仕入れコストは、特にイギリスに置いて、共に増加傾向だ。多くの工場やディストリビューターはヨーロッパの企業で、ブレグジットによって弱まったポンドは、もともと薄い利ざやをさらに圧迫し、市場はインフレーションを余儀なくされた。Kristina RecordsとRye Waxはともに、販売価格を20%増加せざるを得なかった。3年に一度フルアルバムをリリースする、7桁以上の強力なファンベースを持つアーティストのレコードを販売するアーバンアウトフィッターズのような店舗は、ケイティ・ペリーのレコードを38ポンドで販売して商売も潤っているかもしれないが、ニッチなアンダーグラウンド・ダンスミュージックの市場については、ヴァイナル商品の選択肢が増えたことにより、相対的に財布の紐が固くなってしまったのが実情だ。

「レコード・プレスの費用は、僕が市場に参加してからだけでも20パーセント以上は上昇してるよ」と語るのは、2010年にButterzレーベルを共同設立したエライジャだ。「一方、レコードの販売価格は、僕が買い始めた2005年頃からあまり変わっていない。僕も8ポンドの値札がついたレコードを探すし、10ポンドなら買わないというお客さんも少なくないよ」。

しかし、エライジャはダンス専門店が被害者の体裁を取ることには賛同しない。彼に言わせると、プレス工場にとっては、20の異なるリリースを500枚ずつプレスするよりも、スパイス・ガールズのシングルを10,000枚プレスする方がはるかに簡単なのは言うまでもない。エライジャの哲学では、この逆境を乗り切るには、各レーベルが、よりクリエイティブな方法で作品をマーケティングするべきだという。「新曲を人に届けるのにもっと上手な方法を考えるべきだし、購入者にとっての価値を上げていかなきゃいけないんだ」。

経済的な負担は、しかし、ヴァイナルに焦点を当てた新レーベルの登場に歯止めをかけている訳でもない。2014年にRye Waxが開店してからというもの「ヴァイナルに焦点を当てた地元レーベルの爆発的な増加が起きた」そうだ。「本来、こういったムーブメントをサポートするために開業した訳だけど、それらのレーベルが成長するにつれ、確かに需要も増えた。新曲を買うために、海外からペッカムを訪れるお客さんも少なくないよ」。

「開業してから目の当たりにした、小規模でDIYなレーベルの躍進には勇気付けられるよ。今、東ロンドンには元気なインディー・レーベルのシーンがあるんだよ」と付け加え、On The Corner、Brokntoys、Rhythm Section、そして店舗自体によるWest FriendsやCotch Internationalなどのレーベルを例に挙げた。

ヴァイナルの人気が増すにつれ、プレスする手段も徐々に増えてきた。これが一巡し、今度は新興レーベルの立ち上げに追い風となるだろう。先月はダブリンにて新規工場が誕生し、オーストラリアでも近々新規オープンが控えている。昨年はジャマイカのTuff Gong Internationalがレコード・プレスを復活させたし、ブラジル、韓国、ベルリン等でも工場が稼働を開始した。また、QratesやVinylize.itのような新サービスも登場し、100枚限定プレスなどのオプションを提供することにより、ヴァイナル産業に参入したい新興企業をバックアップした。これらは、2017年、インディペンデント・レーベルやアーティストに2.7億ドルの収益を配当しつつレコード・セールスを54パーセント引き上げたBandcampのようなプラットフォームの存在と相まって、大きな効果を奏している。

「個人的には、ヴァイナルをプレスする方法は、選択肢が多ければ多いほどいいと思っている。品質が保たれるならね」と語るのは、Perc Traxの創設者、Percだ。「最低ロットを引き下げることによってレーベルがヴァイナルに参入しやすくなって、結果としてヴァイナル・ユーザーが増えるのであれば、それは素晴らしいことじゃないかな」。

しかし、一方では、インディペンデント・レーベルの急増によって、レコードに収録される音楽自体のクオリティが問題視されている側面もある。小規模レーベルやディストリビューターの隆盛について、ジェイソン・スピンクスは「多すぎだよ! 新しくできては潰れて、多くのレーベルは、存在に気づく前に無くなってしまってるよ…」と嘆く。

彼の考えによると、ヴァイナルの復興は、一部の人々を安易な気持ちでリスキーな物理的リリースを持つレーベルの世界に引き込んでいる可能性もあるという。「競争の激しい、厳しい世界だよ」と続ける。「競争は健全なことだけど、ブームだからといって、ヴァイナルならなんでも売れるくらいに軽く考えている人もいると思うんだ。そういう人たちは、実態に直面してショックを受けているよ」。

Local Actionの創設者、トム・リーは、ヴァイナル・リリースをするべきという潮流は、アーティストにとって悪影響もあるという。リリースに踏み切り、セールスが伸びなかった際には、レーベルも、制作者も、停滞させてしまう可能性があるからだ。「売れると思って契約することはないよ。音楽が気に入ったからサインするんだ。だから、ファンが足りないアーティストにとって、ヴァイナル・リリースの負荷は大きい。デジタル・リリースで失敗しても損失はせいぜい数百ポンドだけど、ヴァイナル・リリースが空振りすると1,000ポンドの赤字を抱えることになる。そうした数字は、アーティストやレーベルのモチベーションを下げてしまうよ」。この点について、Percは「音楽のクオリティはメディアによって左右されないことを忘れないで欲しい。ヴァイナルを出さないと本格的に見えないなんてこともないし、ヴァイナルを出したからといって多くのDJにプレイされる訳でも、より広い層に届く訳でもないんだ」と助言する。

スピンクス氏も、この視点に賛同し、新レーベル誕生の波が生み出した話題性は、2015年を境に下降の傾向に転じていると補足する。購入者たちは、より慎重になり、在庫も充実し始めた中古の世界にレア盤を探し求めるようになりつつある。「この傾向の一つの原因として、つまらないリリースがヴァイナル市場に溢れかえってしまったことがあると思うんだ」。

スピンクス氏は、さらに、中古のレア盤を探し求めるのは昔からダンスミュージック・カルチャーの一要素ではあったが、近年では「一部のDJやアーティスト、レーベル、そしてメディアなどが人のレコード・コレクションを大げさに取り上げたことによって、この傾向が顕著になってきている気がする」と付け加える。昨年、このことに関連してBen UFOは、「もし、購入するかどうか迷っている高価なレア盤があるなら、それを購入する代わりに、ファイル共有などで最近手に入れた10曲を買って欲しい」とツイートした。

旧譜の需要が増加していることは、オンラインの中古音楽市場であるDiscogsのヴァイナル・セールスが、昨年、18パーセントも増加したことなどから実感できる。昨年販売された795万枚のうち、345万枚は「エレクトロニック」のカテゴリーを与えられたジャンルからであった。様々な音楽メディアがDiscogsで販売された高価なレコードを紹介し、毎月レポート記事を書くユーザーもいる。これらも、同様に、レア盤の売買について興味度が高まっていることを反映しているだろう。

Mixmagにおける筆者の同僚、ショーン・グリフィスは、2015年にヴァイナルを必要以上にもてはやす潮流について「Stop Worshipping Wax(レコード崇拝をやめよ)」というコメント記事を通して警鐘を鳴らしていた。Percも、人々が収録された音楽よりもヴァイナルであることに大きな意味を持たせすぎると、いろいろと問題が起きるだろうと同意している。「ヴァイナル・オンリーでDJすることをやたらと主張するDJや、そのくせレコード2枚まともに繋げやしないDJをたくさん見てきた」と言う。2016年には、ヴァイナル至上主義者たちを冷やかす趣旨で、ロンドンの”Tropical Waste”というパーティが「オールナイト・ヴァイナル無し」の見出しでイベントを宣伝したこともあった。

短期的にみて、ヴァイナルがメインストリームに復活を遂げたことはアンダーグラウンド界にとって問題も生み出している。といってもまだまだ黎明期であり、こういった問題を潰していく活動は、業界が変化するときにはつきものなのかもしれない。新たな生産技術の開発は、しっかりと自分の考えを持ったオーディエンスが増えることとあいまって、将来的に、ヴァイナルというフォーマットにより多くの恩恵を与えてくれる可能性もあるだろう。今は、そのようにコトが運ぶことに期待するほかない。

 

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