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BLOG

月刊: ベストアルバム6選 (Feb.)

“ボーダレスな”傑作がたくさんリリースされた2月。

Mixmag Japan | 11 March 2021

月間ベストアルバム, mixmag

先月1月に引き続き、今回も1月29日~2月28日までにリリースされた作品の中から素晴らしいアルバムを6枚選びました。

Daft Punkは解散してしまったし、The WailersのオリジナルメンバーだったBunny Wailerは亡くなってしまいましたが、その偉大さは鋭意継承していきたい所存です。 実際、The Notorious B.I.G.のドキュメンタリーの配信がNetflixでスタートし、The Prodigyの故Keith Flintに関するドキュメンタリーの制作も進行中だとか。ポップミュージックへの影響力も、彼らはとりわけ強大でした。

昨今はジャンルの垣根はおろか、アンダーグラウンドとメインストリームの境界線も曖昧になってきましたが、間違いなく彼らの貢献も大きいでしょう。2月はそんな“ボーダレス”な作品が多かったように感じます。


80KIDZ 『ANGLE』

80KIDZ and YonYon – 「Your Closet」

2019年ぐらいから、クラブで80KIDZを見かけるたびに「今の80KIDZが一番かっこいい」と言い続けてきました。現行テックハウスのモードにおけるCarl CoxやDeetronを彷彿とさせ、渋谷のContactで行われるパーティ「MISSION」ではヘッドライナー/オーガナイザーとして辣腕を振るっています。

その円熟ぶりは、プロデュース面にも反映されていました。しかし、今回のアルバムではクラブアクトとしての充実をひとまず横に置き、普遍的なポップミュージックが提案されています。事実、blockfmが実施したインタビューでは、「クラブミュージックに寄りすぎないようにしている」と語られています。彼らはBand Setとしてパフォーマンスを行うこともありますが、本作に収録されているほとんどの楽曲がそこにも照準が合っているような印象を受けました。特にmabanuaが参加した「Glasses」は、同氏のメロディと80KIDZのグルーヴによる相乗効果的なインプロビゼーションが感じらます。クラブかフェスティバルか、あるいはライブハウスか…。まさしくどの“ANGLE”から聴くのかによって、解釈が異なる楽曲なのではないでしょうか。

そして言語の面でも白眉があります。YonYonが参加した「Your Closet」、Maika Loubtéが参加した「Banane」では韓国語とフランス語が登場します。2010年代後期には88risingを筆頭に「アジア」の勃興があったわけですが、それによって言語(英語)の優位性が崩壊しました。BTSにしろyaejiにしろ、もはや躊躇なく歌詞の中に韓国語を登場させています。80KIDZはこの「アジア」が台頭する前からブレイクしていました。2009年のファーストアルバム『This Is My Shit』にはThe Shoesやautokratzらが参加し、英詩でヴォーカルをとっているわけです。そのうえ経済成長も日本は先に経験しているわけですから、「アジア」の波に乗りにくかった側面もあるでしょう。その点では、本作はようやく出せた「アジア」への回答のようにも思えます。その上で、AAAMYYYが「Magic」を日本語で歌うことの重要性が際立つわけです。世代やジャンルはもちろん、本作では言語までもが等号で結ばれています。


Madlib 『Sound Ancestors』

Madlibがプロデュースし、Four TetことKieran Hebdenがエディットとアレンジ、マスタリングを担当した『Sound Ancestors』。「Duumbiyay」ではSix Boys in Troubleの「Zum, Zum」(1959年)、「One for Quartabê / Right Now」ではQuartabêの「Lembre-Se」(2017年)がサンプリングされ、相変わらず年代もジャンルの幅も広く音源がピックアップされています。しかしその印象は整然としており、これにはFour Tetの手腕を感じますね。Flying Lotusの『Cosmogramma』を彷彿する、サイケデリックで端正なバイブス。

MadlibやThe Avalanchesのようなサンプリングを多用するアーティストを指し、“Archivist”(直訳では記録保管者)と評する文章を最近よく見かけます。博物館や図書館などの学術機関において、保存価値のある情報を査定、収集、整理、保存、管理し、閲覧できるよう整える専門職を指す場合に使われる言葉です。音楽に関する膨大な知識を有し、あまつさえ我々にサンプリングという形でそれらを提示する彼らはまさに、シーンにおけるArchivistなのであります。CDはおろかiTunesの楽曲データさえ購入することが少なくなった今、(一般論では)音楽に接する機会はストリーミングや動画サイトが大半でしょう。すなわち「所有」から「アクセス」へ、市場形態の変遷が起きたわけです。そこで「所有することに価値が無くなったのか?」という議論が出てくるわけですが、そんなことは全くないでしょう。“ポスト・トゥルース”や陰謀論に脅かされる現在、知識量と信頼度の高い情報を持つ人物は何より貴重です。レコードが敷き詰められた棚から1枚のLPを選ぶ行為と、サブスクリプションサービスからアルバムを探し当てる行為で比較すると、よりリテラシーを求められるのは明らかに前者です。視覚的にも、多くの情報に接するのは所有者側でしょう。筆者もゴリゴリのサブスクユーザーですが、作品を所有する行為にも大いに価値を感じています。ひいては、優れたArchivistに対しては畏怖の念すら覚えます。

書き手の世界でたとえるならば、本作『Sound Ancestors』は敏腕ジャーナリストによって書かれた要素が、天才編集者の手によってさらなる高みに到達した“至高の文章”なのであります。読んだ後にえもいわれぬ満足感を覚え、特定の誰かに伝えたくなるあの感覚。情報量はすこぶる多め、けれども理路整然と並べられたそれは、時に歪でありながらも我々を恍惚へ導いてくれます。


Brijean 『Feelings』

Brijean – 「Wifi Beach」

Toro y MoiのBand Setにも参加するパーカッショニスト・Brijean Murphyと、マルチインストゥルメンタリスト・Doug Stuartによるデュオの第2作目。〈Ghostly International〉からは初のリリースであります。彼女たちの音楽性に大きな変化はありませんが、前作『Walkie Talkie』(2019年)のチルな雰囲気から、よりカラフルな内容にシフトしました。アートワークで比較しても、その意図は明らかだと思います。2人の写真をもとに制作された素朴な『Walkie Talkie』のジャケットから、本作『Feelings』ではヒッピーカルチャーを想起させるようなビビッドなテイストに変貌しております。

特に分かりやすいのが「Wifi Beach」でして、明らかにBrijean Murphyの手数が増えています。彼女のパートだけでなく全体的に音のパーツが増えており、シンセもキーボードも煌びやかに鳴っています。しかし前作の素朴さが完全に消失しているのではなく、あの空気感も確かに残されているように思います。内省的なスタンスのまま、テクスチャーだけゴージャスに変わったといいますか。考えてみれば、かつてはヒッピーカルチャーも主流とは異なったオルタナティブな社会の実現を目指していたわけですから、当時のメンタリティも“陰と陽”の単純な二項対立で語れなかったのではと推察します。しかるに、本作のタイトルが“Feelings”と複数形を選択しているのも、なんだかしっくり来るのです。

なお、リードシングルの「Day Dreaming」には、満を持してToro y MoiことChaz Bearがキーボーディストとしてフィーチャーされています。


Carpainter 『Yamanote Disko Klub』

90’sをリアルタイムで知るプロデューサー/DJにクラブカルチャーの現在について聞くと、結構な割合で「あのころ(90年代)に似ている」と返ってきます。それは音楽性だけでなく、アンダーグラウンドの雰囲気やアーティストのスタンスも含めた、全体像の話のようです。筆者の主観で恐縮ですが、90年代のレイヴシーンに間に合わなかった世代としてはそう聞いても「ほーん」ぐらいの感覚でして、リアルタイムで体感した先輩方とは実感の強度が異なっていたと思います。UnderworldやJeff Millsがいなかったら、恐らくMixmagで記事を書くことすらあり得なかったとしても。

それが今、確かな感触をもって「おお!これが90年代!」と感じられようになってきました。昨年〈TREKKIE TRAX〉からリリースされた、Carpainterの『SUPER DANCE TOOLS Vol.1』。かねて彼は、自身のルーツを90年代に置いているプロデューサーです。彼の場合、楽曲のプロデュース方法から当時のそれを踏襲しています。「当時は現在のようなDTMソフトはなかった」と前提した上で、あえてアナログな手法を採用する場合があると。2月にリリースされた『Yamanote Disko Klub』も、そんな90年代バイブスと地続きなのであります。たとえば「YATAI」は、ラッパーのなかむらみなみが和太鼓を叩き、それをCarpainterがエディットして楽曲に落としてゆく方法がとられました。これはまさしく、“DTM無き時代”に行われていたハードウェア的発想だと感じるのです。

(参考 Carpainter: 90年代テクノを再発明する

90年代を実感する根拠として、アートワークの同時多発性もあります。なんなら、この記事ではそれを強調したいぐらい。ベルギーのJulian Mullerが同じく今年の2月にリリースした『Flower Coaster』、ニューヨークのX-CoastやアイルランドのTommy Holohanらが参加した『Dance Trax』シリーズのジャケットに注目すると、それぞれが近い価値観で制作されたのが推察できるのではないでしょうか。各々の拠点は違えど、この現象がほぼ同時に、さらにはCarpainter±5歳ぐらいの世代間で起きていることも重要だと思います。この世代のプロデューサーが曲を作り始めたとき、既にDTMは普及していたし、90’sヒーローたちも後追いで知ったはずです。音楽だけでなく視覚的にも、当時のマインドと共鳴している事象。今後の動向も気になります。


Black Coffee 『Subconsciously』

Black Coffee – 「I’m Fallin feat. RY X」

本作に感じた素晴らしさを別の記事に書いてしまったので、僭越ながらそちらをご紹介します。

(参考: Black Coffeeが『Subconsciously』で提示する「グローバル」の行方

この記事では、「南アフリカを出自とし、普遍的なポップミュージックも追求していたBlock Coffeeが、本作でその全貌を明らかにしたのではないか?」と論じています。個人として突き抜けた2010年代を経て、現在の彼は南アフリカ全体のシーンを押し上げることにフォーカスしてるように見えます。


Jimmy Edgar 『Cheetah Bend』

JIMMY EDGAR – 「METAL feat. SOPHIE」

アルバムをリリースするたびに、カッティングエッジな音楽性でシーンをリードするJimmy Edgar。今回はLAの〈Innovative Leisure〉からのリリースですが、本作ではヒップホップの新たな境地に到達しています。彼の活動を細かく追っている人は意外に思われるでしょうが、Jimmy Edgarの単独名義の作品としては2012年の『Majenta』以来なんですね。その間、彼はRizzoo RizzooやB La B、Nia Kayらの楽曲をプロデュースし、Machinedrumとのユニット“J-E-T-S”を結成し、〈Ultramajic〉の共同主宰者・Pilar Zetaと『Moments of Reality』を制作してきました。多作家と言って差し支えないでしょう。しかも、それらの内容は実に多岐にわたります。IDMやアンビエント、ダブステップにR&B、今日までに様々なビートミュージックを追求してきました。

そんな彼のヒップホップアルバムですから、やはり一筋縄ではいきません。さらには、これまでJimmy Edgarが辿ってきた道筋を改めて回顧する趣もあります。先述したB La Bが「TURN」で参加し、J-E-T-Sの「OCEAN PPL」でヴォーカルをとっていたRochelle Jordanが「CRANK」でもヒプノティックな歌声を響かせています。そして盟友だった、故SOPHIEと共作した「METAL」。粒ぞろいの本作の中でも、ハイライトと言って差し支えない傑作です。二人のエクスペリメンタルなマインドと、フロアライクな大胆さが合致したスーパートラック。願わくば、この不世出な才能をもっと見ていたかった…。


Text_Yuki Kawasaki

 

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