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BLOG

月刊: ベストアルバム6選 (Apr.)

あなたが救われたと感じたとき、ともすれば向こう側にも救われている人間がいるのかもしれない。

Mixmag Japan | 21 May 2021

月間ベストアルバム, mixmag

最近、なかば逃避行のようにアンビエントを聴いております。あるいは、それに類する音楽を。今まで個人として辛かった時期はありましたが、“クラブシーン”というコミュニティ全体がここまで苦しい状況に追いやられたことはないのでは…。少なくとも平成生まれはリアルタイムで知らないはずです。もちろん特定のコミュニティに限らず、「サードプレイス」と呼ばれる場所は甚大な影響を受けています。個人的にも2時間に1回ぐらい言いようのない不安に襲われますね。

フロアも遠い現在、プロデューサーたちもどこかインナーなフィーリングに寄っているような印象を受けます。事実、4月はアンビエントやそれに類するプロダクションを持つ楽曲に優れたものが多かった。単なるセラピーとしてだけでなく、作品として素晴らしかったのです。Gorje Hewekがデビューアルバム『Collages』をリリースした際に、「音楽はセラピーである」と語っていたように、あるいはアーティスト自身も作品を制作することに救いを見出しているのかもしれません。


Yoshinori Hayashi 『Pulse of Defiance』

Yoshinori Hayashi – 「Luminescence」

ユーモラスだけど切実で、生命力に溢れたアルバム『Pulse of Defiance』。Yoshinori Hayashiの通算2枚目のフルアルバムです。前作『Y』、前々作『AMBIVALENCE』に引き続き、ノルウェーのレーベル〈Smalltown Supersound〉からのリリースですが、まずこの事実が凄いですよね。Kelly Lee OwensやMatt Karmilらとレーベルメイトなわけですから。Owensに至っては、2020年の大傑作『Inner Song』を出したばかりです。

Yoshinori Hayashiは実に捉えどころのないDJでして、昨年Boiler Roomでみせたコンセプチュアルなミックス(90年代インスパイア)を紡いだかと思えば、別の現場ではジャンルレスかつ破天荒な組み立てを試みます。ウワモノを2トラックで聴かせた直後、キックだけの音源をかけるなど…。存在がフリージャズ的といいますか、不敵な選曲と時に大胆なミックスでフロアを驚かせてくれます。そんな彼ですが、本作『Pulse of Defiance』をリリースする際にこんなコメントを寄せています。「これまでの作品はリスニングにフォーカスした音楽とクラブミュージック的音楽が乖離していましたが、今回は双方を一曲の中で統合させることに努めました」。ダブやブレイク、テクノにフリージャズといった様々なテクスチャーが展開され、さながらYoshinori Hayashiのディスコグラフィーを闇鍋的に煮詰めたようなニュアンスです。「I believe in you」では不穏なジャングルが、「Shut Up」ではマッドなドリルンベースが、「Touch」では力強いキックが印象的なテックハウスが鳴り響きます。

異なるサウンドスケープがぶつかり合った結果、まさに上のMVよろしく、本作は「今ここ」ではない異世界に繋がってしまいました。けれども、それが今はとても心地よく感じられやしないでしょうか。現実からの逃避先にはうってつけの、喧噪と渾沌に溢れた音楽に、優しい静けさをみる。


Leon Vynehall 『Rare, Forever』

Leon Vynehall – 「Mothra」

奇しくも、Yoshinori Hayashiの『Pulse of Defiance』と同じベクトルのバイブスを感じます。Leon Vynehallもまた、これまでのアルバムをコンセプチュアルな観点から制作してきました。2014年の『Music for the Uninvited』は母親の車の中でかかっていたミックステープの記憶に根差しているし、2018年の『Nothing Is Still』は祖父母が1960年代にニューヨークへ移住した時の物語を再構築しています。

しかしながら本作は、いつもの制約からは解き放たれ、極めて自由なスタンスでもって制作されました。プレスリリースに曰く、「彼は過去10年以上に渡って自身の家族に根ざした制作を行ってきたが、今回の『Rare, Forever』では、過去に何が、そして誰が彼を形作ってきたのかを探求するのではなく、その瞬間に彼が何者であり、どんなアーティストであるのか、ということを初めて表現している」といいます。Yoshinori Hayashiの発言と共振するものを感じませんか。コンセプトから外れ、ジャンルもルールも飛び越えたクリエイティビティ。これが果たしてパンデミックの影響なのかはさておき、個人的には彼らの私小説的なアプローチにリアリティを感じます。

けれども、彼らが「フロア」を諦めたようには思えません。「Snakeskin ∞ Has-Been」は、これまでに発表した「It’s Just (House of Dupree)」や「Blush」に比べてダークでLo-Fiな印象を受けますが、それはパンデミック以前のアブストラクなダンスミュージックに接続するようにも感じられます。つまり、本作はダンスミュージックとしても解釈する余地がある。内省的なアプローチを選択するが、それでもフロアからは離れがたい。「私小説が文学たりえる理由はそこに普遍性があるからだ」とどこかの批評家が言っていた気がしますが、本作は我々オーディエンスの物語でもあるように思います。


Porter Robinson 『Nurture』

Porter Robinson – 「Look at the Sky」

日本時間の4月24日、Porter Robinsonが主催したバーチャルフェスティバル「Secret Sky」。この1日前にリリースされたのが、同氏の最新アルバム『Nurture』であります。今日までに出そろっている各メディアのインタビューでは、鬱状態からのカムバックが本作を形成する重要な要素として語られています。『Worlds』以来、本人名義の作品としては実に7年ぶりのアルバムですから、確かに深刻な精神状態だったのかもしれません。彼はEDMの文脈から世の中に知れ渡った印象がありますが、今にして思えば、そもそもそれが悲劇だったのでしょう。『Worlds』がリリースされた2014年は、Ultra Japanの初回が開催された年です。世界的にもそれほど“EDM”というワードに違和感がない時期でしたが、彼はこのアルバムで既に“脱EDM”していたように思われます。「Sad Machine」も当時流行っていたBPM127前後の曲に比べるとややスローですし、「Sea of Voices」はスペースオペラ的なドリームポップです。…ですから当時は、「EDMのスター」として扱われ、周囲が期待するものと彼自身がやりたいことにズレが生じていたのではと邪推します。勝手にコマーシャルな方向に線路を引かれ、あまつさえ「以前みたいな曲を作れ」と言われれば、そりゃあ病んじゃいますよね…。

で、本作で彼はそんな周囲の期待を背負いながら、新たな境地を開きました。先のSecret Skyのラインナップを見てみると、日本からはEnd of the World、高木正勝、Serphが参加しています。出演者にはいずれもPorter Robinsonが自分でコンタクトをとったそうです。それほどに、彼らは本作における大きなインスピレーションでした。高木正勝とSerphに代表されるように、現在のPorterのベクトルはダンスミュージックの範疇外にも向いていることが分かります。事実、「Wind Tempos」や「dollscythe」からは、両者の影響が色濃く感じられます。

高木正勝とSerph…。実は筆者、Porterと同じ年なのですけれども、今日において彼らのようなアーティストを重要なリファレンスにする感覚が分かる気がします。Porterは熱心なアニメファンとしても知られていますが、彼のSNSを見ると、我々とほとんど同じタイミングで「さよならの朝に約束の花をかざろう」や「僕だけがいない街」に反応してるんですね。この10数年のうちにタイムラグがなくなり、海を越えて価値観の共有が可能になったわけです。SpotifyやApple Musicがある音楽でもそれは起きうるでしょうし、その意味で本作はアラサー世代の文化論としても機能するような気がします。このアルバムを聴いていて、まるでPorterと一緒に育ったような感慨を覚えました。


Nami Sato 『World Sketch Monologue』

Nami Sato – 「TEN」

第70回ヴェネツィア国際映画祭にて、ドキュメンタリーとしては史上初の金獅子賞に輝いた『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』。旅行客がローマに期待するような、観光めいた場所や人物が全く出てこない作品です。“ローマ”の表層とは別の、実に普遍的な住民の営みを切り取っただけのドキュメンタリー。〈The Ambient Zone〉からリリースされた、Nami Satoの最新作『World Sketch Monologue』にもその趣を感じます。我々のささやかな日常も、いや、我々の日常こそ物語るべきなのであると。

シングル「TEN」がリリースされた際、Nami Sato本人はこう述べています。「雨が止んで、まるで仕組まれたように空に虹が出てきました。その時の私は、あたかも完璧に書かれた台本の一部になったような気がしたのです。それと同時に、不思議な感覚が体中をめぐっているのを感じました。私たちはそれを覚えていませんが、体内の細胞は記憶しています。私たちは、思い出せていないだけなのです」。

ドキュメンタリーと音楽を比較したとき、大きな違いとして挙げられるのが「抽象度の高さ」でしょう。音楽は比較的解釈の自由度が高い。彼女の前作『OUR MAP HERE』(東日本大震災で被災した仙台市の集落の住人の協力を得て行われたフィールドレコーディング)のように具体的なモチーフが語られる例もありますが、それでもやはり“自分事”として受け取れる余地があると思います。仙台や東京、あるいはローマにいようと、身の回りに誰か(何か)が存在していれば物語は成立する。すなわち本作『World Sketch Monologue』は、どこかに生きる“私”のサウンドトラックなのであります。


Dawn Richard 『Second Line』

Dawn Richard – 「Boomerang」

アメリカのスタッフやエージェントから話を聞くと、「この国は大きな転換期を迎えている」と口を揃えます。資本主義を牽引するような存在でしたが、都市部で暮らす若者はもはや経済的な成長が幸せに直結するとは思っていないと。個人的な感覚としても、先日行われた第93回アカデミー賞で作品賞を含む主要3部門でオスカーを獲得した『ノマドランド』によって実感を持てました。

ショービジネスは最たる例かもしれません。音楽フェス「FYRE」の一件がエンタメ界を震撼させたように、昨今のセレブリティやブランディングのあり方にも抜本的な見直しが必要なのでしょう。アメリカ南部の街・ニューオーリンズ出身のDawn Richardも、そんな社会を体現するひとり。リアリティー番組「Making The Band(原題)」から誕生したR&Bグループ・Danity Kaneのメンバーとして2005年頃に台頭し、紆余曲折を経てエレクトロニックミュージックやAvantpopのシンガー/ソングライターに成長。Dirty Projectorsや、Jimmy EdgarとMachinedrumによるプロジェクト・J-E-T-Sの作品にも参加しています。彼女がソロとしてキャリアを重ねてゆく横で、Danity Kaneは解散と再結成を繰り返していました。2008年に一度解散、2013年に再結成し、翌2014年に再び解散と、順調とは言いがたい道を歩んでいました。しかも、ロサンゼルス・タイムズなどが報じるところによると、メンバーの不仲は殴り合いにまで発展したそうです。いやはや、聞くだけで疲れる話ではありませんか。

で、彼女が燃え尽きかけていた時期からカムバックして制作したのが6枚目のアルバム『Second Line』でした。タイトルは、ニューオーリンズのブラスバンドを伴った伝統的なパレードの名称に由来します。本作にはエレクトロニックミュージック・シーンにおける黒人女性の視座を整える目的がありつつ、その舞台は彼女の故郷。各楽曲のリリックにも「クレオール」、「ルイジアナ」、「ニューオーリンズ」が絶え間なく出現します。音楽としても出色で、彼女がこれまでに培ってきたハウスやテクノの知識、ファンクやビートメイクのセンスをすべて詰め込んだ快作です。そして本作リリースに際し、彼女はこうのたまった。「私がジャンルよ」と。華麗なるローカルからの逆襲。


Social State 『Sacrosanct』

Social State & JD. Reid – 「Aerial」

Mr Mitchが主宰するレーベル〈Gobstopper Records〉から頭角を現したロンドンのプロデューサー・Social State。あらゆるクリエイティビティにおいて、原体験に根差した作品は強いエネルギーを持ちます。Kendrick Lamarの『good kid, m.A.A.d city』にしろ、本稿で挙げてきたほぼすべてのアルバムがそういった力強さを持っています。フロア無き今、内省ぐらいしかできることがない、…と言うと乱暴ですが、自身の内側にアイデアを求めるのは必然性があると思います。

本作『Sacrosanct』はグライムやジャングルなどの要素を取り入れながら複眼的に発展してゆくアルバムですが、Social Stateのルーツはバンドにあります。アルバムのリリースに寄せられた彼の言葉を引用して、本稿の締めとしましょう。

「15歳の時に、自分が影響を受けた音楽を真に表現するアルバムをいつか作らなければならないと思っていた。ちょっと時間がかかったけど、これがそうさ…。その15歳の少年はメタルバンドのベーシストで、姉のジャングルテープを盗んでは、夜になるとFruity Loopsでビートを作ろうとしていた。彼ならこのアルバムを気に入るんじゃないかな」。


Text_Yuki Kawasaki

 

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