ハウスシーンの立役者DJ EMMAと、ヒップホップシーンを築き上げたZeebra。今夏、この二人がタッグを組み「NO PICTURE(ON MY PHONE)」をリリースした。「クラブとクラブカルチャーを守る会」(以下、C4)でコミットした二人が作り出した極上のヒップハウスは、クラブシーンへの今の思いが結実した傑作だ。「クラブを変える」そう意気込むDJ EMMAと、ナイトメイヤーとして世界を股にかけるZeebra。この二人の熱い対談を3回に分けてお届けしよう。
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現場でのDJプレイのときには
英語・日本語というこだわりをなくしたい(DJ EMMA)
Mixmag まず、お二人が共演した作品のことからお伺いしたいのですが、「NO PICTURE(ON MY PHONE)」の制作のいきさつは?
EMMA 最初にヒップハウスやるっていうコンセプトがあって……10何年前から考えていたんですけど、面白いタイミングがなかったんです。で、いよいよトラックができた時点で、ちょっとやりませんかと。
Mixmag Zeebraさんに声をかけたのは、何かあったんですか?
EMMA いつも会うようになったこともありますし、僕としては自然な流れなんです。トラックを作ってるときもZeebraくんのイメージで作りだしたので。
Mixmag Zeebraさんは事前にそういう話を聞いていたりしたんですか?
Zeebra それこそC4の活動で、一緒にみんなでいろんなことをやることがすごく多くなって。例えばみんなで遊び半分でパーティをやったときには、EMMAくんがDJブースでプレイしてるときに俺がマイクを持ったり……今までではあり得ないような絵が何度かあったんです。そういうのが形になっていったら、それはそれですごく素敵だよなと思ってて。C4に参加して、ボランティアをやっている意味も繋がってくるなと思ってたので、この話を聞いて、ぜひぜひと。
Mixmag クラブシーンを長く引っ張ってきたお二人なので、その二人が共演している意味合いも素敵に感じました。しかも音も、DJ international系の、超ヒップハウス的な音。そのあたりも意識して?
EMMA そうですね。ただ、ちゃんと今っぽい感じを残してやれたらいい。ヒップハウス自体が少ないですからね。
Zeebra (ヒップハウスは)やっぱり時代の産物……今になって思い起こすと80年代って、ヒップホップだハウスだというより“クラブカルチャーがまるごとやってきた”感じでしたよね。多分、世界的にもそういうことが起きていて、本当はそれぞれを広げたら個々が成立してるものなんだけど、いわゆる“クラブ的なもの”が凝縮されていましたよね。当時はDJの数も今より全然少ないし、現場も少ない。だから昔GOLDのヒップホップとハウスのパーティなんかもありましたしね。
Mixmag お客さんも普通にヒップホップとハウスのフロアを行き来してて……。
Zeebra そうそう。でもそれは当時、あの時代だからこそできることで。だからこそ、そういうヒップハウスが生まれたんだと思うんです。その後全部のジャンルが成熟していったから、むしろそれが必要なくなっていったところだと思うんですけど。だからいま、あえてやるのが楽しい。
Mixmag なるほど。今、混沌の時代を思い出したい、みたいな気分もあるんですか?
EMMA 僕はいつも思い出してる。だから、こういう音もあるよ、こういうアイディアもあるよと提示したいんです。眠っているアイディアとか、そういうのはある程度年齢がいってるんで、怖くない(笑)。新人だったらなかなか難しいと思うんです。
Zeebra 確かに。
Mixmag キャリアに裏打ちされたものがあるから、こんなのもあるよと見せることができるわけですね。
EMMA 提案しやすいですよね。最初から『ACID CITY』のアルバムの前の段階として考えていたんで、それをひとつのトラックだけじゃなく、だいたい4〜5つくらいのリミックスを作ろうと思っていたんです。で、それも最初からアイディアあるまんまではじまっていって。
Mixmag 『ACID CITY』のコンピレーションに最終的にゴールを持っていこうと?
EMMA そうですね。で、自分の中では、現場でのDJプレイのときには英語・日本語というこだわりをなくしたいという思いがあって、制作に関してもそうなってくる。そういうところもZeebraくんに相談して、日本語が入ってたらいいなと……すると彼から“2割日本語”って出てきたときは、僕としてはちょっとびっくりしましたけどね。
Mixmag それは、雰囲気作り的にそういうアイディアだった?
Zeebra 僕的には、例えばヒップホップの現場のラップの役割と違うだろうなってすごく思ってて。やっぱり、4つ打ちの現場ってインストゥルメンタルの時間がすごく長かったりもするし、そういう意味では(ラップが)より素材みたいなものになり得るというふうに意識して……そうしたときにヒップホップに比べると、世界の壁がないというか、すぐに広がっていく。ヒップホップはどうしても言葉のカルチャーなので、その国のローカルなものになりがちなんですけど、そうじゃないとしたら、全部英語でラップして、欧米に行かないとそういうふうにはならない。でも、4つ打ちの世界ってそういうものがないから、せっかくなら、広がりのあることをやりたい。あとは聴いたときに日本のものだと思った瞬間に躊躇する人っているじゃないですか? そういう奴らをだまくらかしてやろうと。気が付いたら途中で、あれ?日本語入ってる?って思わせたいというのはありましたね。
EMMA それはすごく分かる。
Zeebra 頭から日本語でラップすると、日本語のラップなんて……って人いるじゃないですか。
Mixmag なるほど、おっしゃるとおり、日本語すらも4つ打ちにのると、素材として馴染むところはありますね。
Zeebra そのあたりはすごく意識してやってみた感じです。
Mixmag 聴いていると“渋谷のBGM”じゃないですけど、今の渋谷の混沌とした感じとぴったり合ってるというか。そういうイメージはなかったですか?
EMMA なくはないですね。いま僕が考えてたのは、何年間かZeebraくんと一緒にいる時間があって繋がっててよかったなって。その繋がりはすごく“街感”だと思う。
Mixmag 街を媒介にした繋がり。
EMMA そうですね。それは大きいですよ。コミットしようという気持ちも、僕はC4に入ってから勉強させられた、痛感させられたって言っていいかもしれない。自分が、そういうのはなくても平気だ、一人でできるって思っていたところが結構あったんです。政治的な部分も、クラブを変えてやろうという部分も。でも、そうじゃないんだなって思う。
Mixmag Zeebraさんは、そのあたりをどうお考えですか?
Zeebra 僕的には“混沌とした”感じが、この10年くらいですかね、なんとなく自分の中で感じていて。というのは、ヒップホップの中での表現に……限界とは言わないですけど、ひとつ壁が来たなという時期が10年くらい前にあったんです。で、そのぐらいの時期に何が起きたかっていうと、4つ打ちがヒップホップに入ってきて。当時進化が無くてつまんなかったから、皆んな喜んで受け入れて。それで、むしろそういうのが、EDMみたいなのを盛り上げていくあれもしたのかなあって気もしますし、ブラック・アイド・ピーズとか、LMFAOみたいな感じ、そういうものを受け入れていくパーティ文化みたいなところに、ヒップホップは一時期グワーってなっていって、そのへんがクロスオーバーして面白かったんですよね。
だけど、そこまでいっちゃうと面白くなくなっちゃって、行きすぎちゃって、手法のひとつになっちゃって……それで、う〜んと思ってたんですけど、それは多分、自分がやってるわけじゃなくて、世の中がそういうふうに動いていったことを、ああ面白いなってそのままほっておいたら、あんま面白くなくなっちゃっただけで。だから、自分は自分で面白いことやった方がいいなっていう気がすごいするんです。そこでいくと、俺は普段新譜も聴くんですけど、昔のものをすごく聴くんですよ。80年代の曲とか。自分のiTunesの中にいっぱい入ってたりするから、当時のニューヨークを思い出したりするのも楽しかったりするので、そういう、時代とかひっくるめて、ごっちゃごちゃになって、場所とか時代とか全部ぐちゃぐちゃになっても、もういいやみたいな感じが、今はしてますね。
Mixmag なるほど。グルグルーッとこねくり回していたら、面白いものがポッと出てきたっていう。
Zeebra うん。
Mixmag なるほど。それはC4の活動の繋がりで、違うジャンルの人たちとの関わり合いができたことによって推進されたところもあるんですか?
Zeebra そうですね。でも、どうなんだろうな。
EMMA でも、あんまり変わってないように感じるところも(笑)。
Zeebra ちょうど10年くらいの中にこれがあって、むしろこれがあったからこそC4みたいなことになってるのかもしれないです。
EMMA あ、それ大きいかもしれないねえ、もしかしたら。
Zeebra 多分、そういうクロスオーバーするようなことがこの10年間であまりなければ、音楽シーン的に、そうしたらああなってなかったかもしれない。いろんな意味でクロスオーバーする可能性がいっぱいあったから、こうなってんじゃないのかなって気がするし。
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DJ EMMA オフィシャルサイト(NITELIST MUSIC)
Zeebra オフィシャルサイト
Words Mixmag Japan
Photography 亀井隆司 Takashi Kamei
Styling 小倉正裕 Masahiro Ogura(Zeebra)
Hair & Make Up Mei(Zeebra)
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