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FEATURES

THE BENEFICIARIES:「私たちは抵抗するアーティスト、テクノは抵抗する音楽」

Jeff Mills、Eddie Fowlkes、Jessica Care Mooreによるデトロイトのスーパーグループ・The Beneficiariesが語る“ブラックカルチャー”

Mixmag Japan | 19 January 2021

2020年、デトロイト:テクノのパイオニアたちが30年後の地元について思いを馳せた時、何をイメージしただろうか…少なくとも現状そのままではないだろう。パンデミックが全世界を停止させ、人通りの消えたディストピア感あふれる都市部を生み出し、市民はマスクを着用し、街の標識の多くが住人に「家にいなさい」と指示し、警官たちは隔離を促しウイルスの拡散を止めるためにパトロールしている。一方、ミネソタの警官による黒人の死傷事件が全国的な抗議活動に火をつけ、世界的な価値観の変遷の幕開けを感じさせた。初めて、黒人の声が広く届いたような気がした。これらの出来事よりも前にThe Beneficiariesは結成され、楽曲に対するビジョンも確立され、アルバム『The Crystal City Is Alive』のレコーディングが進められていた。パンデミックと、昨今の黒人の市民権に対する関心の高まりとあいまり、これ以上ないほど最適なタイミングで登場したと言えよう。デトロイトのテクノ・ゴッドファーザー2名(Eddie FowlkesとJeff Mills)、そして悪名高い詩人のJessica Care Mooreを擁する同プロジェクトは、テクノの中核にブラック・ミュージックのルーツがあることを思い出させてくれる。

The Beneficiaries – 「The Crystal City Is Alive」

The Beneficiariesが中心に据えるテーマには、先祖や、遺産、ブラックカルチャー、そしてアフリカ未来主義などがある。メンバーの3名は、いずれもデトロイトのブラック・コミュニティに属するという体験を共有しており、自らの血統に誇りを持ち、クリエイティブなエネルギーに満ち溢れている。プロジェクトのテーマは、アメリカで黒人であることのニュアンスや、互いに、そして先祖に対して感じる本能的な繋がりなどに由来する。「先祖から引き継いだ、特別なコミュニケーションの方法があるんです。何かを手掛けたのが黒人のアメリカ人であると言われなくても、本能的に分かる、といったことがあります」と、Jeff Millsは語る。「それがすごく面白いことだと感じて、もしかして先祖から受け継いだものなのかもしれない…私たちにも同じことができるかもしれない…そう思って作ったのが、The Beneficiariesなんです。私たちが何かを受け取ったように、一緒に何かを作り上げて、興味を持ってくれる後世に伝えていきたいんです」。

プロジェクトの発起人として、Jeff Millsは地元で似たようなコラボレーションが生まれるようインスピレーションを与えたいと言う。デトロイトは才能で溢れており、世代を超えて多くのアートが生み出されているが、同市の特徴のひとつとして、アーティストたちがそれぞれの閉鎖的な空間で活動しているということがある。その結果、Jeff Millsが率いるThe Beneficiariesのような地元のコラボレーションが珍しいケースとなっているのだ。「Jeffは、私たちの街で、たくさんのコラボレーションが誕生しないことを悲しんでいました」と、Jessicaは語る。「それぞれにファンがついているのは素晴らしいことだけど、アーティストが集えばファンベースも結集され、一体感が高まるとともに、お互いを隔てる壁もなくなります。そういったコラボレーションの力を証明したいという狙いもありました」。

Jessicaも、Jeffも、Eddieも、お互いと協働するのは初めてのことだ。JeffとEddieは無論、デトロイト・テクノの歴史と同じくらい、つまり40年ほど面識があったし、デトロイトで育ったJessicaも、二人の存在を若い頃から知っていた。三人とも似たような背景を共有し、近しいアイデアも持っていたので、ほぼ瞬時に深いレベルで繋がりを感じることができたと言う。そしてこれが、プロジェクトのコンセプト部分の醸成を促した。「事前にたくさん話し合いました。深い会話も。例えば『将来、自分たちはどうなってると思う? 未来の歴史に名を残すには、どうすれば良いかな?』とか。これは、特にブラックのコミュニティーにおいては、重要なことなんです」とJessicaは明かす。

「話し合いは、20分ごとにテーマを変えながら、とても長時間におよびました。終わる頃には、まるで兄弟姉妹と話しているような気持ちになりました」とJeffは付け加える。掘り下げた議論とアイデアの交換によってアルバムの基礎が出来上がり、ほどなくすると、互いのアフリカ未来主義に共感できる下地が浮かび上がってきた。それぞれが現代を言葉や音に変換して、未来の世代に伝えていきたい願望があることも明らかになったのである。

「時に深くなったり哲学的になったりもしましたが、私たちは、このデトロイトというとても“ブラックな環境”からやってきたので…」と、Jessicaは語る。「Breonna TaylorやGeorge Floydのおぞましい事件のように、何かが起きると、それがこの環境にいる私たちのようなアーティストのインプットとなります。私たちは抵抗するアーティストでなければならず、テクノは抵抗する音楽であり、ブラック・ミュージックであるにもかかわらず、そのような認識が足りていません」。

同プロジェクトの作品には、黒人であることの自認と、未来に対する共通のビジョンが内包されている。Eddieにとって、それは顕在的なアイデアを超越して、受け継いできたものの自然な発現として形になった。ブラック・アメリカンであるということは、奴隷制度の遺産を引き継いで生きること、日々、マイクロアグレッションに耐えながら生きることを意味し、その生きた経験が、彼の作品に内側から影響を与える。言葉にするには難しいと言うが、これらのことを反映しているのが、彼の音楽的表現だ。「私たちの作品は、かっちりと整理されているわけでも、計画されているわけでもなく、自然に発展したものです。私たちがどこからやってきたか、それそのものなのです。正直、深いと思います。自分自身から湧き出る音楽なのですから。自分の音楽ですが、定義はできません」とEddieは語る。

テクノの生みの親のひとりとして、Eddieは立ち上げ当初から現場にいたが、自分のクリエイティビティをのびのびと発揮し、違った一面を自由に表現できたのは今回が初めてのことだったかもしれない。「抑圧されることによって、良い音楽が生まれることもあります。不満な気持ちを、なんとかして発散させる必要がありますから。また、自分の精神的な側面や先祖に触発されることもあります」と続ける。「このプロジェクトはそういうところがあります。パーカッションが入ったことで今までとは違う次元に到達でき、とても気持ちよかったです。Jessicaのバイブスにならった、フリーなスタイルのプロジェクトです。最高に美しかった」。

Jessicaと音楽のつながりは、遥か昔に遡る。80年代、彼女はまだThe Wizardとして知られていたJeff Millsをラジオで聴いたテクノ・ファンだ。これまで数多くのミュージシャンと共に活動し、2004年から続くロック・コンサート「Black Women Rock!」もプロデュースした。力強い詩とパフォーマンスによって、現代ポエムやアクティビズムのシーンにおいて第一人者としても知られている。また、アメリカおよび全世界において、黒人の闘争に勢いを与える存在ともなっている。デトロイトのクリエイティブ・コミュニティの伝道者である彼女は、The Beneficiariesにうってつけのメンバーだった。テクノがブラック・ミュージックであることが再認識されつつある現代、彼女の参加はそのメッセージをより際立たせたのである。「未来志向のメンタリティーで、全く新しいことをやろうと思ったんです。ブラック、コンゴ、テクノ・スピリチュアル、母なる大地への回帰…」と、Eddieは続ける。奴隷としてアメリカに連れてこられた黒人には、潜在的になにかしらのカルチャーに繋がる必要があるのだと言う。「自分自身と繋がりを感じられますか? 本当の自分が誰であるかを知り、そこに先祖が見えますか?」と続ける。「努力が必要です。なぜなら私たちの歴史は、アメリカの構造的差別によって全て燃やされ、ねじ曲げられてしまったからです。自分のカルチャーを知ろうとすると、アメリカでは脅威に感じる人がいます。『黒人なんだから、そんなに胸を張るな』と言わんばかりにです。私は祖先が導くままに、自分の精神世界から知見を得るようにしてます」。

Eddieにとって、自分の先祖から知見を得ることは、デトロイトのドラマー・Sundiata O.M.やEfe Besによる生のパーカッションを取り入れること、そしてAmp Fiddler(Eddieの作品「The X」にもキーボードとして登場)のスタジオでレコーディングを実施することを意味した。一方、JeffはEddieのパーカッシブな作品に感銘を受け、自身のスタジオにもコンガなど、自らのトラックがEddieのトラックに通じるようになる各種の打楽器を追加した。Jessicaは、三名が重ねた会話の規模や深さをとらえた言葉を生み出すことに励んだ。自ら「今までの最高傑作」と思った言葉を7ページ分書き上げたJessicaは、それをJeffに送った。「彼からEメールが返ってきました。『面白いね』と。なので、『ちょっと、それは忘れて! 他にもまだまだあるから!』と返信して、追加を送ったら、『良いね、これで音楽を作り始められるよ』と言ってくれました。『間違いなく世界で最高のコラボレーションなんじゃないの?』と思いましたよ」。

Jessicaの言葉と、集合的なアイデアにインスパイアされたEddieとJeffは、ブラックな精神世界とテクノロジーが交差する領域を掘り下げ、100年後のリスナーに発見してもらうための、音のタイムカプセルを作った。そのコラボレーションの火花が、インスピレーションと制作の共生的なサイクルに火を灯した。本作はテクノ・ミュージックの中枢的な精神を完全に内包したアルバムであると同時に、同ジャンルを高尚かつ詩的で、祖先の遺産というルーツに遡る新境地へと導いた。「手本となって可能性を示したいんです」と、Jessicaは語る。「精神的なレベルで、アーティストがこのような形で繋がった時に生まれるエネルギーは、譜面を超え、歌を超え、より深みのある進化を遂げるということを知ってほしいですし、それを感じてもらえたらと思います」。

SF文学にせよ、映画にせよ、テレビ番組にせよ、アートにせよ、歴史的に西洋社会は白人のメガネを通して未来を眺めてきた。Jessicaはこれを精神の植民地化と呼び、白人中心の未来を思い描くようにプログラムされてしまっていると言う。その世界観では、有色人種たちは存在していないか、あるいは脇役なのだ。それが自尊心に与える影響はどのようなものだろうか? 未来予想図に自分たちが描かれていないのに、どうして希望を持ったり、楽観的になれるだろうか?「『The Crystal City Is Alive』が、私たちを明日へと向かわせる原動力になることを期待しています…構造的差別を抜きにして、私たちについて語るものが必要なんです。アーティストとして私たちが今作るものは、未来のためのアーカイブなんです」と、Jessicaは語る。「私の言葉は現代を語る言葉なので、未来志向のJeffには難題を突きつけられました。けれども新しい世界を作るためには、ブラックな想像力の中で自分たちを見出し、このひどい現状を抜け出した先をイメージできないとダメなんです」。

そして2021年、世界はこのアルバムと、そのテーマを受け止める準備ができていると言えるだろう。音楽とその意味に身を浸す時間もあり、黒人として生きることの意味について語り合うことにオープンになっている。「有色人種の子供たちが未来の世界に自分をイメージできることは、とても重要なんです」と、彼女は付け加える。「ラテン系の女の子や先住民族の女性、そして白人の女の子も、どうして親の世代がそのような物言いをするのか、自分たちの内心とのズレに向き合っています。なので、未来の世界で有色人種が輝いているようなメディアを、私たちが作ることが大切なんです。私たちがそこにいなければ、誰がいると言うのでしょうか?」

The Beneficiariesは、いわばデトロイトのスーパーグループで、それぞれのフィールドでリスペクトされているレジェンドたちが、アイデアとエネルギーを交換し、生まれるものを楽しむドリームチームのような存在だ。他に同プロジェクトに参加しているのは、35年以上デトロイトで作品を作りながら次世代を育成してきた、生来のデトロイト人、カバーアーティストのSabrina Nelsonだ。彼女の作品はヨルバ系宗教および東洋とアフリカの哲学からインスピレーションを受けている。プロジェクトの視覚的な部門を担当したSabrinaは、『The Crystal City Is Alive』のミニマルながら説得力ある存在感を完成させるために必要な最後のピースだった。デトロイトにとってもベンチマーク的なリリースであり、Jeffは地元のみならず、世界中で似たようなプロジェクトが発足するきっかけとなることを期待している。「こういったことにアプローチするのに、黒人である必要はありません」と彼は語る。「日本人でも、中国人でも、人種は関係ありません。自分の周りにいる、同じものに影響を受けた人たちを見つけ、一緒にクリエイトすれば良いのです。たくさん作れば作るほど、社会がどのように発展していくかに大きな発言権を持つことが可能になります」。

また、Jeffは「これがデトロイト生まれの、エレクトロニック・ミュージックや他のアートをフィーチャーした最後のプロジェクトにならないことを期待しています。むしろ他の人たちの背中を押すことになれば幸いです」と、締めくくった。

同作品のレガシーは、これから生まれるコラボレーションや、デトロイトのアーティストたち、そして世界中のリスナーたちの中で生き続けることになるだろう。

『The Crystal City Is Alive』は、Axisから好評発売中。


Words_MARCUS BARNES

 

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