2人組テクノデュオ“Drunken Kong”が、2月10日にChristian Smithのレーベル〈Tronic〉から新作アルバム『Where We Start』をリリースした。昨年末には弊誌でRisa Taniguchiとのスペシャル対談が行われたが、その際にも本作については少し触れられている。何せ終盤でその話に及んだ手前、その時点では掘り下げることができなかった。テクノの現状はもちろん、その未来についても思うところがあるようだった。
今回はアルバムのリリースを機に、改めて自身(延いてはテクノ)の現状について話を聞いた。国内では既に確固たる地位を築き上げ、海外でもその存在感を確かなものにするエースが語る、“今”。
‐ 前回のインタビューで「シーンのトレンドよりも自分たちのアイデンティティを追求したい」と仰ってましたけれども、それはいつぐらいから感じ始めたことなのでしょうか?
D. Singh(以下、D): 去年の半ばぐらいですかね。
KYOKO: 後半ぐらいじゃない? BPMが速くなって、色んな場所でテクノのパーティが始まって、みんなが「さぁハードに行こう!」となったタイミングだと思います。自分たちも硬くて速いテクノをプレイしていたんですが、段々「本当にコレがやりたかったんだっけ?」という思いが強くなってきちゃって。
D: Beatportで上位に来る曲を聴いてて感じるんですけど、最近はどれも似てるんですよ。
‐ EDM全盛の頃と同じ雰囲気になってしまっているわけですね。
D: 状況はかなり近いと感じます。強いキックと、重めのベースライン、そしてトランスっぽいメロディ…。それはそれで時代の音だと思うんですけど、あまりにも飽和してる印象があるんです。色んなアーティストから僕らのところにデモが送られてくるんですけど、ほとんど同じ内容なのでその中から良い曲を選ぶのが本当に難しい。
KYOKO: 基本的にアシッドで、キーが高くて、少し前にも流行ったハードハウスのシンセを入れて…。
D: そうそう。みんな、Amelie LensやCharlotte de Witteが作った流れから出られなくなってるような印象を受けます。それだけ2人が与えるインパクトが大きいって話なんですけど。…であれば、僕らはそこから少し出たほうがいいんじゃないかと思いまして。自分たちは何が本当に好きで、どういう音楽を作りたいのかってことをもう一度考え直したんです。東京で育ったバックボーンだったり、各々が通ってきたルーツにちゃんと向き合おうって。
‐ それで再スタート的な意味合いがタイトルに込められていると…。しかし今作は本当にTB-303っぽい音(いわゆる“アシッド”を特徴づける音色)が使われてませんね。
KYOKO: 全く使ってないです(笑)。アルバムの準備はしばらく前からしてたんですけど、結果としてトレンドとは真逆の方向に行ったんじゃないでしょうか。
D: もちろん不安はありますけどね。ただ、トレンドと反対に行ったことが自分たちもよく自覚してるので、上手くいかなかったとしても納得できます。これに関しては僕らの間に娘が生まれたことも大きかったですね。彼女がいなかったら、ここまで自分と向き合おうと思わなかったかもしれないです。彼女が大きくなった時に、「これをパパたちは君が生まれた頃に作ったんだよ」って胸を張って言いたい。
KYOKO: アルバムのジャケットに三角形が3つ描かれてるんですけど、あれは私たち家族をそれぞれ表していて。その三角形が色んなところに繋がればと思って、あのデザインにしてもらったんです。だからこのアルバムは、私たち家族のスタートでもありますね。
Drunken Kong – 「Where We Start」
‐ 本作においては「See You Again」や「The Arrival」など、祝祭的なニュアンスのアンビエントも含まれてますが、あれにもそういう意図が…。
KYOKO: 単純にDがアンビエント好きなんですよ。
D: そうですね(笑)。僕、家だと基本的にダウンテンポの曲しか聴かないんです。エレクトロニカなんかも好きで、自分でももっと作りたいんですけど、なかなかその機会がなくて。EPだと厳しいので、それが出来るのはアルバムぐらいなんですよ。そんな状況も、僕としては気になるんです。シングルやEPはクラブユースなアンセムを発表するためだけにあって、ものすごく画一化されてしまっている。もう少しバリエーションがあっても良いと思うんですよね。そういう意味では、今回のアルバムの中で「This Is」って曲が一番好きです。
Drunken Kong – 「This Is」
KYOKO: 昔ってそういうEPいっぱいありましたよね。A面がテクノで、B面がダウンテンポでって。
D: 実は今「次からEPもそういう構成に出来ないか」ってChristianに頼んでるところなんです。彼は「いいね!そのほうが面白いよ!」って前向きに捉えてくれてるんですけど、これもまぁ実験的な段階ですね。
‐ Christian Smithは今のシーンをどう捉えてるんですか?
D: とにかく彼はトレンドへのリアクションが速いので、やっぱりアシッドからは距離を置いてます。もし今、彼に303を使った曲を渡してもそのままボツになりますね。よほど発明的な音にしない限りは。
KYOKO: でもChristian、めちゃくちゃ厳しい鬼教官!ってわけでもないんですよ。遊び心もちゃんと持ってるような人で。たとえばこのアルバムにも彼と一緒に作った「Toro」って曲が入ってるんですけど、刺身のトロのことなんです(笑)。
D: この曲が完成した後に近所の居酒屋に行って、「タイトルどうしようか?」って話をしたんです。そこでChristianが目の前に出てきた刺身を見ながら、「『Toro』でいいじゃん」って(笑)。少年のような人です。制作面でも本当に助けられてますよ。僕、プロデュースに行き詰まると悩み込んじゃうタイプなんですけど、Christianは真逆。彼と一緒に曲作ってるとそれがよく分かります。気晴らしに散歩に出かけたりするんですけど、その時に曲の話は一切しない。「Pokemon GO」とかやり始めますからね。この間も三宿でポケモン捕まえてましたよ。…で、その後制作に戻ると、なぜかちゃんと作れるんです。
Drunken Kong & Christian Smith – 「Toro」
‐ 彼とはどれぐらいの付き合いになるんですか?
D: 2015年にWOMBで出会ってからですね。その時彼は石野卓球さんがレジデントをやってた「STERNE」に出演するために来日してたんです。で、たまたま1人でいるところを見かけて、僕が「あなたのファンです。“Drunken Kong”って名前で活動してます」と話しかけたのがすべての始まりでした。それから3か月ぐらい経ってTronicに曲を送ったところ、「いいね!ウチでリリースしよう!」と反応してもらえたんです。そうしてリリースされたのが、EPの『To The Piece』。
KYOKO: 〈Terminal M〉のMonika Kruseを紹介してくれたのもChristianなので、私たちにとっては大恩人なんですよ。彼がいなかったらここまで来られなかったかもしれない。
D: 僕らを初めてADEに呼んでくれたのもChristianだったもんね。確か2016年だったと思うんですけど、その年にちょうどTronicとTerminal Mのコラボパーティがあったんです。とんでもないラインナップだったよね。
KYOKO: WehbbaやANNA、Pig&Danなんかが出てました。あとはEric Sneoとか。初ADEなのに、私たちもいきなりそこへ放り込まれてしまったんです(笑)。
D: いやー、ガチガチに緊張しましたよ…。その時もChristianが色々ケアしてくれて、僕らも色んな人たちとネットワークを作れたんです。本当に彼には感謝しかないですね。
KYOKO: そういえばMonikaも、自分がやりたいことを追求するモードに入ってるみたいなんですよ。昨年の大みそかに、彼女も私たちとは別のカウントダウンイベントに出演するために来日してたんです。そのパーティの前に一緒にディナーに行ったんですけど、その時に音楽の話もしまして。彼女も「トレンドに合わせて自分たちのスタイルを変えるべきじゃないわ。自分の個性で勝負すべきよ」と言ってたんですね。
D: 去年僕らが〈Octopus〉からリリースした「Viper」が支持されたのも、そういう“トレンドへの反発”に理由があるんじゃないかと思うんです。正直言うと、あの曲をCarl CoxがAwakeningsでかけてくれるとは予想してなかった。今っぽいフロアライクなトラックに比べると派手さはないし、構成もすごくシンプルなんですよね。でも、Monikaにも「私もこの曲(Viper)が大好きよ!ウチのレーベルから出してほしかったのに!」と言われて(笑)。
KYOKO: なので、多分今年はテクノの細分化が始まると思うんです。やっぱりみんな薄々気付いてるんですよ。「マンネリ化したプロダクションからどうやって逸脱するか?」が、今の最大のテーマだと感じますね。
‐ 今回のアルバムの中で個人的に一番好きな曲が「Neo」なんですけども、お話を伺ってて新規性が見えた気がしました。キックが軟らかいのかも?と。フロアライクな曲なんですけども、踊ってて全く疲れないんですよね。
KYOKO: 私も「Neo」は繋ぐのを忘れるほど好きです(笑)。ブースの中で聴いててもアガっちゃうぐらい、自分でも入り込んじゃうんですよね。
Drunken Kong – 「Neo」
D: この曲はティーザーでもいっぱい使っちゃってるんで、自分では若干使い過ぎな気もしてるんですけどね(笑)。Adam BeyerやEnrico Sangiulianoの曲を聴くと分かるんですけど、実は彼らのプロダクションってキックがそれほど強くないんです。〈Drumcode〉のプロデューサーは多分そこに意識的なんじゃないかな。だから、既に細分化の流れは始まってる気もしてます。新しい流れに負けないように、僕らも自分たちの個性を追求しつつ、フレキシブルに周りの状況を注視してゆくつもりです。良い年にしますよ!
Interview_Yuki Kawasaki
Photo_genta
■ Drunken Kong 『Where We Start』
2020.02.11 リリース
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