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FEATURES

Kelly Lee Owensが追求する、いつかの金曜の夜

レイヴ、気候変動、身体的なトラウマからの回復、The Velvet UndergroundのJohn Cale…。今の彼女を取り巻くすべてが詰まったアルバムがリリース

Mixmag Japan | 15 September 2020

Kelly Lee Owens, Kelly Lee Owens アルバム, mixmag

ある金曜日の夜、ウェールズ出身のプロデューサー・Kelly Lee Owensは〈Warp〉のレジェンド“Plaid”のサポートアクトとして、ロンドンのサウスバンク・センターにいた。「金曜の夜だったしサウンドシステムも良かったから、イケると思ったんだよね」。その日のPlaidはアルペジオが効いた素敵なサウンドスケープだったが、KellyはBPM160の高速セットをぶっ放していた。「Plaidは好意的に評価してくれたんだけど、少しやり過ぎだったかも。…まぁでも金曜の夜ってそんなもんだよね。話題になったみたいだし、あの夜はレイヴのように感じたよ」。

レイヴの話に及ぶと、彼女は途端に饒舌になった。「パンデミックで外出ができなくなる前から、人々はレイヴを欲していたような気がする。それがなぜかは分からないけど、超越的な瞬間をみんな今まで以上に必要としていたんだ」。

そしてそれは、Kelly Lee Owensの最新アルバム『Inner Songs』における主要テーマのひとつでもある。彼女が2017年にリリースしたデビューアルバムのように陶酔的なソングライティングも特徴的だが、今作にはいかにもフロアライクなテクノチューンもいくつか収録されている。そのひとつがファーストシングルの「Melt!」で、アップリフティングなキックが耳を引く。なお、本作『Inner Songs』では気候変動へのアンチテーゼも重要な要素である。アルバムの中で頻出するほか、「Melt!」では氷河が溶けていく音がサンプリングされている。

Kelly Lee Owens – 「Melt!」

「アンセムのような曲が欲しかったんだ」とKellyは語る。「でもそれだけじゃなくて、オーガニックで意味のあるものにもしたかった。ピュアなテクスチャーから、ハードなものを作りたかったの」。

「Melt!」の他には、Bicepを彷彿させるハードでローファイなトランスチューン「Jeanette」、ダウンテンポな「Flow」、更にはRadioheadが2007年に発表した「Weird Fishes/Arpeggi」のインストゥルメンタル・バージョン(本作では「Arpeggi」と改題)が収録されている。

Kelly Lee Owens – 「Jeanette」

彼女は楽曲制作において、自身の声を頻繁に使う。しかしこのカバーではヴォーカルが省略されているのだ。その理由について、“女性アーティストは自身で曲を作れない”という性差別的な思い込みへのカウンターの意味合いがあるのでは?と深読みしたが、彼女にその意図はなかったようだ。「何かを証明する必要はなかった。ただこのアルバムを俯瞰したときに、インストゥルメンタルな曲があってもいいんじゃないかって思ってさ。それだけだよ」。

Kelly Lee Owens – 「Arpeggi」

ウェールズ北部・フリントシャーで生まれ育ったKellyは、やや型破りなキャリアを歩んできた。18歳の時には、末期がん患者のケアをサポートする補助看護師として働いていた。「その経験ができたことを光栄に思ってる。その時に『死』との向き合い方を学べたから。死への恐怖は克服できても、健康に生きられるかどうかは分からない。そのことへの恐怖心は常にあるの」。

その後、音楽家としての道に進むべく、2009年に看護師として働いていたマンチェスターからロンドンに移り住んだ。その時にPure Groove、Sister Ray、Rough Tradeなどの名だたるレコードショップで働き始めた。Kellyは当時の自分を「クールな7インチを知っているインディーキッズ」と表現する。「The MaccabeesやFoals 、LCD SoundsystemにThe Knife…。どんどん自分の趣味が広がってゆくのを感じていたけど、21歳の時にRough Tradeで働いた経験はナーバスだったね。パンクやストナー・ロック、メタルにそれぞれスペシャリストがいて、私は“自分の得意分野を作らなきゃ”って必死だったから」。

彼女に転機が訪れたのは、このショップスタッフ時代であった。Erol Alkanに出会い、その邂逅がJames Greenwood(Ghost Cultureとしても活動しており、本作『Inner Songs』のプロデュースをサポート)やDaniel Averyを引き合わせることになる。Averyのアルバム『Drone Logic』にて、彼女はヴォーカリストとして起用されたのだった。

「ダン(Daniel Avery)と一緒に作った曲を、彼が『これはとても良い曲だから』ってAndrew Weatherallに送ってくれたの。そうしたら、Weatherallも絶賛してくれた」。

Daniel Avery – 「Drone Logic」

かくして、Kelly Lee Owensのキャリアスタートの道が完璧に整った。「28歳でファーストアルバムをリリースするのって、もしかしたら遅いのかもしれない。でもBjörkが『Debut』を発表したのだって、彼女が27歳の頃だったよね」。

結果として彼女のファーストアルバム『Kelly Lee Owens』は大成功したわけだが、その功績が御大Björkにまで伝わり、なんと2018年には「Arisen My Senses」のRemixを手掛けることになるのだった。「さすがにこの時は“ヤバい、とんでもないことが起きてる”って思ったよ」。さらに今作では、同郷の英雄・John Cale(The Velvet Underground)とも共演を果たしている。「彼のスタジオには驚いた。なんてったって、ヴォーカルブースが私の家ぐらいあるんだからね。そこで私の声を収録したんだけど、歌う度に彼が飛び上がって腕を振り上げるの。驚いた私に彼は、『いやいや、僕に構わず続けてくれ!君の声は最高だ!』って言ってくれて」。

Kelly Lee Owens – 「Corner Of My Sky ft. John Cale」

John Caleとの共作「Corner Of My Sky」はウェールズ語と英語の両方で歌われている。「私が彼にウェールズ語で歌うように勧めたの」とKellyは言う。「ウェールズ語は長い間抑圧されてきた言語で、私たちは音楽と歌を通じてそれを維持してきた。私は彼に、その歌を通してウェールズとのつながりを取り戻してほしかったのよ」。

しかし、刺激に満ちたこの3年間は必ずしも順風満帆ではなかった。「私は基本的にサバイバルモードだったの。精神的にも相当参ってた」と彼女は振り返る。この時期の出来事についてはあまり詳しく語られなかったが、身体的なトラウマからの回復が本作を制作する上で重要なファクターとなったらしい。「専門家の治療も受けたよ。“体の下から上に向かって、音に合わせながら動かす”っていう内容のセラピーだった。うつ病ではないんだけど、その体験をした翌週はひどく落ち込んでしまったんだ。部屋からもほとんど動けなかったけど、かえってその時の状況を歌詞にするにはちょうど良い時間だったね。その体験をもとに、たくさんのアイデアを音楽で表現したよ」。

Kelly Lee Owens – 「On」

「ライブももっとやりたいわ。あの空間は私が成長する場所でもあるの。自分のための空間で、自分の音楽を演奏することに勝るものはないから」。世の中が秩序が取り戻すまでは、もうしばらく時間がかかりそうだ。しかし彼女はいつだって卓越した瞬間を追求し続ける。いつかのフライデー・ナイトのように、世界がそれを求めているならば。

Kelly Lee Owensの「Inner Song」はSmalltown Supersoundからリリース
bandcamp


Words: TRISTAN PARKER
Photography: KIM HIORTHØY
Edit: YUKI KAWASAKI

 

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