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POST-PC MUSIC: ロンドン発のインディーレーベルは、いかにして新たなステージを開拓したのか?

ジャンル分け不能な音楽性、SOPHIEの台頭、先取りされていたヴァーチャルリアリティ…。2010年代屈指の「発明」を今こそ振り返る。

Mixmag Japan | 27 February 2021

PC Music, PC Music レーベル, mixmag

私が最初に〈PC Music〉と出会ったのは2013年――。現在は既に閉店してしまった、イーストロンドンのPower Lunchesというベニューでのことだった。レーベルの創始者であるA. G. Cookは、「JACK댄스」と呼ばれるパーティでエッジーなダンスミュージック観を披露していた。フロアはまだ、ほとんど空っぽ。そのときのラインナップには、UKガレージ、グライム、コマーシャルなヒップホップ、K-Pop、2000年代のR&Bなどを好むDJが名を連ねていた。その多くがアップカミングなプロデューサーであり、時にはディズニー映画のサウンドトラックがかかることもあった。

やや時間が経ち、地下にあるDIYなフロアに若者が徐々に集まってきた。ナイトコアやチップチューンのギークと思われる人々、クィアやフェムの衣装に身を包んだ集団…。さながらレイヴカルチャーのリヴァイヴァルのようだった。彼ら/彼女らは、当時急成長していたSoundCloud界隈の一端を担っていた存在である。PC Musicに関わりのあった、Kane WestDux ContentPrincess BambiLipgloss TwinsQTらは、この手の音楽が好きな人たちのために無料で音源を配布していた。先日急逝したSOPHIEは、同時期にグラスゴーのレーベル〈Numbers〉から「BIPP」をリリースしていたが、のちにPC Musicにも合流することになる。いずれの音楽もワイルドで、とらえどころがなくて、病みつきになるほど熱狂的だった。

あれから数年が経過し、PC Musicに関連するアーティストやコレクティブの勢いは、まばらだった地下フロアをはるか昔に追いやっている。SOPHIEは2019年にコーチェラに出演したし、グラミー賞にもノミネートされた。felicitaはインディー・ポップ・アーティストのCaroline Polachekやポーランドのトラッド・フォークバンドŚląsk Song and Dance Ensembleとコラボ―レーションを果たしているし、Hannah Diamondはデジタルアーティストとして驚くべき進化を遂げている。ポップカルチャーは日々変化するものだが、PC Musicに所属するDanny L HarleLil DataGFOTYらは間違いなくそれに影響を与えてきた。盟友のCharli XCXやCarly Rae Jepsenもまたしかり。さらに、PC Music以降の世代にもこの系譜に連なるアーティストがいる。音源がインターネットに残ってさえいればいつでもアクセスができ、それがどの国に置かれていても聴くことが可能だ。あまつさえ、アーティスト同士のコラボ―レーションだって実現できる。しかるにPC Music以降の世代は、ネット環境さえ整えれば世代や居住区を超えられることを知っているのだ。

「ある日、どこからともなくメールが送られてきたんだ。『SoundCloudをあさってたら君の音楽に出会ったんだけど、最高だよね!』ってさ。その差出人がA. G. Cookだったんだよ」。弱冠20歳のumruはそう語っており、Charli XCXのミックステープ『Pop 2』の曲を共同プロデュースすることになった経緯を明かしている。「インターネットを通じて様々な音楽に出会ったし、何なら親友になった人だっているよ」。ニューヨークを拠点に活動する彼は、2018年にPC MusicからEP『search result』をリリースした。同レーベルらしい繊細なエレクトロ・ポップでありながら、新境地を開いている。ゲストボーカルにはメルボルンのBanoffee、ロサンゼルスのRavenna GoldenLewis Grant、セントルイス出身でシカゴを拠点に活動するosno1(現在はLaura Lesとして知られている)などが参加した。

umru, osno1 & Laura Les – 「popular」

Laura Lesとのコラボレーションは各々の作家性を相互に引き出しており、ポップパンクやEDM、黎明期のナイトコアの影響が溶け合い、キメラ的なエレクトロ・ミュージックに仕上がった。皮肉の効いたリリックがさらに際立っている。「PC Musicの音楽はインターネット時代の自由を完璧に表現していると感じるよ。2014年に公開された『Dead Or Alive Stream – Halloween』のビデオを見て、彼らのファンになったんだ」。Laura Lesはそう述べる。また、「PC Musicのミックスやリリースは間違いなく私の最大のインスピレーションのひとつであり、特に初期のミックスには相当影響を受けている」と付け加えた。さらに、彼女はトランス、ハッピー・ハードコアやグラインドコアなども大きなリファレンスとして明言している。このエクレクティックな態度は、音楽にも反映されていよう。彼女のEP『BIG SUMMER JAMS 2018』に収録されている「feels good」は、ブロステップのマナーに裏打ちされたキラーチューンである。“100gecs”の片割れであるDylan Bradyとのコラボ―レーショントラック「ditch a body in the laundry」は、さながらエモ・フォークといったところだ。「Dylanと私は、クラシックなポップパンクの大ファンなんだ。初期のGet Up Kidsやblink-182なんかにも大きく影響されてると思うよ。私たちは楽しい音楽が好きで、自分たちの作品にもそういう要素は詰まってるね」。

PC Music, PC Music レーベル, mixmag

子供向けアニメ『スティーブン・ユニバース』*をよく知る人は、Laura Lesが2017年にリリースした『I just dont wanna want it anything with “beach” in the title』に収録されている「how to dress as human」に対して、“人間とジェムのハーフの男の子を主人公にした物語”と読めるかもしれない。LGBTQをテーマのひとつにした同アニメシリーズは、若い世代のクィアなアイデンティティーを持つアーティストにとって、文化的な指標のような存在である。オハイオ州を拠点に活動するプロデューサー・Galen Tiptonは、本作から受けた影響は大きいと語る。そしてそれに匹敵するほどのインスピレーションが、SOPHIEの音楽性と実験性だった。「彼女のカミングアウト、そしてジェンダー・アイデンティティについて書かれたすべての楽曲が、私の人生に多くを与えてくれました。ノンバイナリーでトランスの女性プロデューサーとして、私はいつも彼女に励まされています。『It’s Okay To Cry』には何度も何度も涙して、何度も何度も救われました」。

*スティーブン・ユニバース: 2013年11月にアメリカで放送スタートしたばかりの最新TVアニメシリーズ。人類を守るマジカル・チーム『クリスタル・ジェムズ』の一員スティーブン。彼はまだチームの中では見習いの身で皆の弟分的存在。体の一部に“Gem(ジェム)”という武器を持つ最強の姉たち、パール、アメジスト、ガーネットのバックアップのもと、世界を救う! (カートゥーン・ネットワークより)

SOPHIE — 「It’s Okay To Cry」

2018年に〈Post-Geography〉からリリースされたTiptonのカセットテープ『QUEER FLESH』には、SOPHIE的な不協和音が随所に散りばめられている。たとえば「Crystal Blood」は、ハイファイなノイズから始まり、トラップ的なビートとベースにマリンバのメロディやドローンが混ざり合い、3分ほどの尺で展開してゆく。そのニュアンスは、食品まつり a.k.a.foodmanDJWWWWWWtoiret statusのような衝動的かつ直感的にフットワークとハウスを融合させる日本のプロデューサーたちにも共振するものがある。「自分の音楽がフットワークだとは思ってませんが、日本の実験的なシーンにフットワークを取り入れたクリエイティビティには親近感がありますね」とTiptonは説明する。「私にとって、彼らが作る音楽は純粋で遊び心があるように感じられるんです。それこそが私が作りたいものですし、そういう制限のない表現と感情が存在できる空間をリスペクトしています」。

Tiptonは、先述したumruとLaura Lesによる「popular」をリワークしており、インターネットカルチャーのリミックス文化の強さ、コミュニティの高度かつフレキシブルな性質を証明してみせた。パンデミック以前、2019年にマインクラフト上で行われていた「Fire Festival」も特筆すべき存在である。悪名高い「Fyre Festival」をもじった名前だが、このイベントにはAnamanaguchiWater SpiritKai Whistonなどが参加した。メタヴァース(=仮想空間)内に2つのステージが設けられ、オーディエンスはその空間の中を自由に徘徊できた。「最初はマインクラフト上で行われたバースデーパーティで友人が言ったジョークから始まったんだ。それがいつの間にか本格的なオンラインフェスティバルに発展して、僕もキュレーションと運営を手伝ったよ」。umruはそう説明する。当時21歳のプロデューサー・Sleepycattが主催したこのイベントには、Charli XCXやA. G. Cookも参加した。「オンラインの音楽シーンがどれだけ成長していたか証明したフェスだったね。このイベントのために様々な地域からたくさんの人が集まったんだ」。

その中でも、RoxasKlahrkのコラボレーションプロジェクト・QUAVISのパフォーマンスは卓越していた。そのミックスの中で、SherekhanによるOasisの「Wonderwall」のリミックスDeath Gripsのインダストリアルなヒップホップが邂逅を果たすのである。元々、Klahrkはイギリス南部の田舎町からSoundCloudを介して音楽を発信していた。アルゼンチン人プロデューサーのRoxasと出会ったのも、音楽共有プラットフォームを通じてである。彼は「僕らは限りなく音楽の好みが似ていたからすぐに繋がって、2016年から一緒に音楽を作っているんだ」と、QUAVISが始まった経緯について述べている。その後、彼らはKlahrk & Roxasと改名し、2019年にアルバム『QUAVIS』をリリースした。本作に収録されている楽曲は、ゆるふわキュートなサウンドには程遠く、カオスでダイナミックなプロダクションに仕上がっている。また、KlahrkはPC Musicについてこう説明した。「彼らのポップミュージックに対するハイパーリアルなアプローチは、僕が2014年に聴いていたほかのどの音楽とも違っていた。それはもう、フレッシュに感じられたよ。さらにその革新的な試みは今も続いているんだ。僕は自分でも〈WARE〉というコレクティブをオーガナイズしているけれど、彼らのレーベルの運営方法はかなり参考になったね。特にインターネットを介した音源の流通に関しては」。

PC Musicの音楽はときにリテラシーを求められ、必ずしも分かりやすいものではない。けれども、redditのスレッドに無限に投稿されるコメントの多さを考えると、彼らのファンがいかに熱心なのかが理解できよう。ジョージア州コロンバスを拠点とするLilah Duncan(Dvnotsとして活動)も、そのようなファンのひとりだった。「数年前にDvnotsとして活動を始めたとき、当時の私の作品のかなりの部分が(ありがたいことに今ではほとんどインターネットから消えてしまっているが)PC Musicから派生したものであることは間違いないよ」。彼女は自分のディスコグラフィーについてそう説明する。「私が最初にSoundCloudに投稿したのは、SOPHIEのライブ盤をリッピングしたものだった。それももうずっと前に削除したよ」。今の彼女の音楽は当時と比較するとだいぶパーソナルなものになっているが、SOPHIEとfelicitaから大きなインスピレーションがあるのは変わりない。たとえば「It’s Pouring / Lux (To Be A Child Again)」は、2人の影響が垣間見える。Dvnotsのミックスを聴いても、例を挙げれば「Betrail Mix」からは、サブベースやキックの嗜好が窺える。

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先ほど名前を挙げたKlahrk、そしてhmurdはロンドンを拠点に活動する20代のプロデューサーだが、彼らはLil Dataからの影響を明言している。彼のアルゴリズム・ポップアルバム『Folder Dot Zip』は、プログラムされた機械的なニュアンスと、より粗野なヒューマニズムの境界線上にある。「TidalCycle」というオープンソースのソフトウェアを使用し、hmurdは音源にスピーディーでカオスなカットアップを制作する一方、Live SetではCharli XCXのサンプリングを多用している。ロンドンのレーベル〈TT〉からリリースされた彼のデビューEP『Boycott ethical consumption』は、エクレクティックなプロダクションという点では他のPC Musicのアーティストの作品と類似する。けれども、hmurd自身は自分の作品に少し違った見方をしているようだ。

「『Boycott ethical consumption』に関して言えば、“アブストラクトなコンピューターミュージックを、どうやってクラブミュージックに応用するか?”っていうコンセプトがあったんだ。色んな解釈をしてくれるのは嬉しいけど、僕としては“PC Musicらしさ”とは若干異なる方向性の作品だと思ってるよ。分かりにくいかもしれないけどね。結果として先ほど言った2つの要素、コンピューターミュージックとダンスミュージックの中間地点にたどり着けたんじゃないかな」。hmurdは自身が言うように、彼の音源からはPC Musicのクリエイティブな面における影響は見受けられないが、レーベルからインスパイアされた部分は大いにあるようだ。「彼らの影響は今や、ポップミュージック全般に及んでいるから、むしろまったく影響を受けないようにするのは難しいだろうね。あまり意識したことはないけど、僕の中にもフィルターはあると思う」。

オーストラリアのMakedaは、ロンドンで設立されたレーベルの影響が広範囲に渡っていることを証明する存在だ。オーストラリアを拠点に活動する彼女は、2019年にメルボルンのレーベル〈Nice Music〉からEP『Lifetrap』をリリースした。本作は“脱構築的なドラムンベース”と評され、抽象的に調整されたピッチやループが耳を引く。カットアップされたリズムや歪んだテクノのテクスチャーは、一聴しただけではPC Musicの影響は分からないかもしれない。けれども、彼女の音楽には確かに彼らの足跡がある。「私の作品を聴いている人が、PC Musicを思い浮かべるかは分からない。私の音楽はたいていの場合、私が経験した状況への直感から生まれるんだ」とMakedaは説明する。felicitaの諸作品や、QTとSOPHIEのメルボルン公演が彼女のインスピレーションだという。「私の音楽には、荒廃したニュアンスと恍惚とした質感の両方があるの。PC Musicも同じような地平で活動していると思う。テーマとしては、感情に重きを置いたもので。だからつまり、音楽として出てきたアウトプットは感情の合成みたいなものなんだ」。

Makedaのエッジーなサウンドデザインからumruのエピックなダンスポップまで、PC Musicが開拓した多様性は、2010年代のダンスミュージックの豊かさそのものである。ジャンルに特定されない実験性やオープンマインドな姿勢によって、様々なサブジャンルが生み出されてきた。そして今、その役割はumruのような若手アーティストの手の中にある。「僕の目標は、最終的には僕の音楽がポップミュージックとしても解釈され、何らかの形でポップミュージックの発展に貢献することなんだ」。


Words_Steph Kretowicz
Edit_Yuki Kawasaki

 

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