8月17日(土)、SUMMER SONICとサカナクションによるスペシャルコラボパーティ「NF in MIDNIGHT SONIC」を訪れた。舞台は幕張メッセ。万人規模の会場で、AkufenやThe Cinematic Orchestraなど、エッジのきいたアーティストが各々のパフォーマンスを繰り広げていた。今年のサマソニは前夜祭にあたる「SONICMANIA」が開催されなかったため、Brainfeederの熱心なファンや4つ打ち狂信者、更にはレイヴァーたちの拠り所は無いものと思われていた。ところが、突如として発表された「NF in MIDNIGHT SONIC」。Brainfeeder、延いてはNinja Tuneのファンまでも納得させるラインナップを組んできたのだった。
中でも、ひときわ注目度が高かったのは、本イベントの直前(直後にも)に新曲「LesAlpx」と「Coorabell」を発表したFloating Points。
彼ほどDJ SetとLive Setで様相が異なるアーティストも稀だろう。Live Setの際にはMogwaiやSigur Rósらと共振するようなポスト・ロック色も強いが、今回の「NF」ではDJ Set。ディスコを基調に、インドやラテン音楽を経由し、お得意のミニマルまでを通過する、めくるめくサウンドトリップへ連れて行ってくれた。
彼の出番は、午前3時過ぎ。マウンテンステージで主役のサカナクションがライブを終えるのと同時に、ソニックステージがライトアップされた。バックスクリーンには幾何学的でサイケな映像が映し出され、Skip Mahoneyのソウルフルな歌声が響き渡る。
彼の手元を見ると、どうやら使っているのはE&Sのロータリー・ミキサーらしいことが分かる。フェーダーではなくツマミをひねることで音を操るタイプだ。Motor City Drum EnsembleやHunee、Louie Vegaも、ロータリー・ミキサー使いとして有名である。彼らは漏れなくハウシーなグルーヴを鳴らすDJと言えよう。エフェクトに頼らず、自らのミックス技術のみでサウンドを紡いでゆく。
Floating Pointsが他と一線を画す点は先述した通り、その幅の広さにある。ロータリー・ミキサーのオーガニックな質感を引き出しつつ、無機質なグルーヴも巻き込んでゆく。この日で言うならば、Don Blackmanの「Just Can’t Stay Away」の次にMelchior Productionsの「The Party」を繋いでくるわけだ。
Melchior Productions – 「The Party」
フェーダータイプのミキサーはエフェクトの数も豊富だし、クイックミックスも可能ならばスクラッチだってお手の物だ。けれども、ロータリーのダイナミズムはそれを補って余りあるほど魅力的である。Floating Pointsのようにジャンルを力技で越境してゆくタイプのDJの場合、なおさらそう感じるだろう。まるで自宅のレコード棚をひっくり返し、オーディエンスに向けて放り投げるような様子であった。そこには深淵なマニア魂と、ドープな音楽オタク独特の執拗な愛情がある。
そして彼の場合、音の組み合わせ方もシンプルなのだ。その分、フロアの人間は踊りやすい。Elbernita “Twinkie” Clarkの「Awake O Zion」やJo Bissoの「Love Somebody」をかける横で、BPM125超のキックを走らせる。その猪突猛進っぷりは、「ザ・ロータリー」という気がしてくるほどであった。
言うまでもなく、サカナクションを本命視するオーディエンスが多かったが、このラインナップには正当性があった。過去に彼らがラジオやその他の媒体で影響を公言してきたアーティストばかりなのである。いつだったか、山口一郎がTokyo FMの「SCHOOL OF LOCK!」でWashed Outをレコメンドしていたのを覚えている。著名なアーティスト自らが媒介となって他の才能を紹介してゆくことは、それほど珍しいことでない。しかしそれをフェスの規模で実現するのは並大抵のことではなかったはずだ。フラットな状態からセレンディピティ的に良いアーティストを見つけられたファンも多かろう。
最後に個人的なぼやきを呟くが、予備知識なしでFloating PointsのパワフルなDJを聴けた人が、今となっては羨ましい。
photo_tanaka junya(Creativeman)
text_Yuki Kawasaki
■ Floating Points 『Crush』
RELEASE: 2019.10.18
LABELS: Ninja Tune
<アルバム詳細>
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