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SCENE REPORT: ベルファストに見るダンスミュージック・コミュニティの熱狂

「今のベルファストには何か違いを求める機運があるように感じてるよ。こんな世の中だしね」

Mixmag Japan | 21 January 2021

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悪夢続きだった2020年が明けてもなお、それはさらにパワーアップし、もはや地獄の様相を呈してきている。補償への嘆願書、諸々の補助金の申請を出しつつ、祈るような気持ちでキーボードを打っているところだ。

とは言え、祈ってばかりもいられない。Mixmag Japanは地図アプリPlacyと連携しながら、文字通り「場」について考えている。我々が普段何気なく使っている「シーン」という言葉は、特定の場所を指していない場合が多い。たとえば「ハードテクノシーン」とか「ディープハウスシーン」というと、グローバルに広がった抽象的なイメージが浮かんでくる。しかし逆はどうだろう。FabricやBerghainと聞くと、何となく特定の「シーン」が想起されやしないだろうか。そう考えると、場所は「シーン」に関して重要な役割を果たしていると言えるはずだ。しかるに、クラブやライブハウス、ひいてはフェスティバルのような場にはシーンを醸成する何かがある。現在各所でオンライン配信が行われているが、大半が“フロアの代替品”の域を出ていないと感じるし、恐らく主催している側もその認識だろう。フォートナイトグランド・セフト・オートのようなゲーム勢が提供するオンラインギグは新しい体験だったが、やはりゲームのマナーに裏打ちされた「ゲーム的な新しさ」なのである。いずれも批判する意図はなく、ここで強調したいのは“1年かけてもリアルな「場」の代替品は見つかっていない”ということだ。

…と前置きしたうえで、今回は世界各地で勃興した「シーン」についてフォーカスしたい。まずは北アイルランドの首都・ベルファストから。今を時めくスーパースター、Bicepを生んだ地である。

*なお、記事中の写真はいずれもパンデミック前に撮影されたものだ。


ベルファストのダンスミュージックコミュニティの根幹には、素晴らしき“craic(アイルランド英語で「楽しい時間/おしゃべり」の意味)”がある。ロンドンなどの大都市に比べると小さな街だが、パーティを開催したり、音楽を演奏したりするのには最適な場所だ。たとえばレーベルをローンチさせるにしても、この街ではそれが“友人との遊び”の延長線上にある。住人たちはビールやワインをおごり合い、その多くは家族ぐるみの付き合いだ。お互いの新しい家や仕事について祝福し、飲み会も頻繁に開催され、あまつさえ誰かの結婚式があれば飛んで駆けつける。音楽にもそのネットワークは反映されており、お互いのミックスをシェアし合ったあとはリリースされたばかりの新譜についてアレコレ大騒ぎする。

英語圏の人間が聞いても、彼らの英語を理解できないことがある。何の説明もなくCraic*のような単語が出てくるし、文法も我々が習ったものと違う用法に出くわすこともあるだろう。しかし我々がスラングを解せるかどうかに関わらず、ベルファスト人たちは楽しいおしゃべりを続けるのだ。何よりである。

*Craic: 余談だが、アメリカ英語ではコカインを意味する

その結束力はフェスティバルにも流用され、「AVA」や「Plain Sailing」、「DSNT」のような組織が生まれている。彼らの成功は、その利他的なスタンスに由来していると言えよう。ここで少しベルファストの歴史を振り返る。

「ベルファスト合意(通称グッドフライデー協定)*」により、1998年に“トラブル”は正式に終結した。しかし、依然として平和の壁*が市中を貫いており、カトリックとプロテスタントの居住地域を分断している。夜の7時には暴動を防ぐため、壁付近の門が12時間閉ざされるのだ。街中の旗に目をやると、その区域がアイルランド派なのかイギリス派なのかが認識できる。言うまでもなく、この状況におけるBrexit騒動は多くの問題を提起した。街の中心部から南へ5分ほど歩くと、高さ180センチほどのユニオンジャックが家の軒先に飾られている光景が見受けられる。印象的なのは、その塗装のフレッシュさと鮮やかさだろう。90年代ほど両者における格差は軽減されているが、その役割を担ってきたのがダンスフロアである。

*ベルファスト合意: プロテスタント系で王党派で英国に所属意識をもつ人と、カトリック系で共和派でアイルランドに所属意識をもつ人の間で起きた紛争における和平合意

*平和の壁: 北アイルランドに存在する、上記の派閥を物理的に隔てるための壁の総称

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地元民にダンスミュージックにハマったきっかけを聞くと、大抵の場合は週7日で営業するメガクラブ「Thompsons Garage*」と、90年代当時最大のダンスミュージックイベント「Shine」の名を挙げるだろう。前者は90年代初頭にAllen Simmsによって立ち上げられ、ベルファストで唯一の、対立するコミュニティがひとつ屋根の下に集えるスペースだった。後者も、後続のベルファストのダンスミュージック・コミュニティに多大な影響を与え、現在では組織化されて2つのフェスティバルを運営している。Adam BeyerMarcel DettmannNina Kravizのようなグローバルスターたちを初めてベルファストへ連れてきたのもShineのオーガナイザーだった。Dave Clarkeとも古くから付き合いがある。

*Thompsons Garage: 新型コロナウイルスの影響を受け、2020年3月に一時閉鎖。現在は店内を改装し、カクテルバー&ピザレストランとして営業中

Thompsons Garageは750人収容の劇場を改修して作られたベニューで、先述のスーパースターたちを招聘するかたわら、ローカルの若手も抜擢してきた。たとえば、Tommy Holohanのベストギグのひとつはここで行われたものである。

Antony Ferrisは2005年からShineで働いている。「ベルファスト人の多くが『Shineは通過儀礼』と言うだろうね。ここに住んでる誰もが通る場所さ。今でもたくさんの人たちを結び付けていると思う。俺はカトリックのコミュニティで育って、カトリックの学校に行ったんだ。プロテスタントの人に初めて会ったのは、Shineに来てからなんだよ」。

ベルファストシーンの熱狂を証明する話がある。2018年8月、Bicepが地元に凱旋し、The Bunatee(現在は閉鎖)のラストパーティに出演したときのこと。オーディエンスの熱狂により、夜が明ける頃には天井のタイルのほとんどが床に落ちていた。主催者のひとり、Phil Lucasはそのときのカケラを持ち帰り、家の額に飾ったという。

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新世代の才能もブレイクしつつある。Sally C、Holly Lester、Or:la、Cromby、Hammerなどは、Bicepの後を猛追しているところだ。ちなみに、かのAnnie MacもShineの元社員である。記事中で名前を挙げた「Plain Sailing」も2019年に新しい試みを開始したばかりだ。Andy MooreとPete Gibneyの2人が中心となって運営されている。

「文化的に成熟した国では、ガレージレイヴを開催することはそれほど珍しいことではないだろう。でも、北アイルランドではあまり知られていないカルチャーなんだ。露出の多い音楽ではないし。それでも、今のベルファストには何か違いを求める機運があるように感じてるよ。こんな世の中だしね」。そう語るのは、片割れのAndy Moore。Plain Sailingは、ガレージからグライム、ヒップホップからブレイクビーツまで、彼らの幅広い音楽的な嗜好を反映した小規模なパーティを開催している。「僕らはベルファストの音楽シーンを多様化させたいんだ」とAndyは付け加える。

AndyとPeteは、当初ベルリンかロンドンで音楽のキャリアを重ねる予定だったという。ところが、Andyがある日路上でばったり会った友達に言われたひとことをきっかけに、方針を180度変えた。「彼女が『あなたちはこの街に残ったほうがいい。きっと2人なら他とは違うことができるよ』って言ってくれたんだ。ベルファストの一部になりなよってね」。

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事実、近年ではナイトライフにおける変化が顕著だ。良い例が「The Ulster Sports Club」である。元々は紛争期間中にオープンした男性向けの社交場だったが、2019年に改装されてナイトクラブへと変貌した。同年9月にはドイツの人気ハウスDJ、Move Dを招聘し、ベルファストの住人を狂喜乱舞させた。

当日の夜、彼は喧噪に満ちたベニューのブースに立ち、粛々とレコードを選んでいた。デッキのわきに鎮座するグラスが紫色のカーテンの色を反射し、なまめかしい雰囲気を演出している。彼は赤ワインを飲みながら、ゴスペルハウスやディスコの曲をプレイした。オーディエンスは歓声を上げ、ホイッスルを鳴らし、「Yeeeeeeoooooooo!」と絶叫する。それに反応する彼の表情には、もちろん笑みが広がっていた。これがベルファストである。


WORDS: ALICE AUSTIN
PHOTOS: PETE LAVERTY, MARTY LOGAN
EDIT: YUKI KAWASAKI

 

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