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SCENE REPORTS: エクアドルは如何にしてユニークなエレクトロニックシーンを育んできたのか

Nicola Cruzたちは流されない。

Mixmag Japan | 5 February 2021

SCENE REPORT, エクアドル クラブ, mixmag

エクアドルがダンスミュージック界隈で脚光を浴びたのはいつだったろうか。ドイツのDJ/プロダクションチーム・SASH!が1997年に発表した楽曲「Ecuador」が初めてかもしれない。しかし現在は違う。パンデミック以前のキト(エクアドルの首都)では、金曜日の夜になると毎週のようにカッティングエッジなエレクトロニック・ミュージックのショウケースが行われていた。メッシュのトップスに小ぶりのサングラスをあわせたオーディエンスが、地元のマルチプレイヤー・J0.yaのミックスで踊る。この街のクラブシーンを先導するのは、Nicola CruzとFidel Eljuriの2人だ。クンビアのリズムとアシッドテクノをミックスし、CDJの間ではライトアップされた聖母マリアの置物が光っている。

彼らが主催するパーティ「La Sagraria」は、アートスペース「La Ideal」で今日までに複数回にわたって行われている。「火を囲みながら踊って、自由を感じてほしいんだ」とNicola Cruzは語る。「僕たちはここでの抑圧に不満を感じているんだ」と彼は続け、エクアドルの国政について説明する。「ある人はこの国に対して、政教分離によって政治が行われる『世俗国家』だと言うが、必ずしもそうではない」。

SCENE REPORT, エクアドル クラブ, mixmag

右の男性がNicola Cruz

SCENE REPORT, エクアドル クラブ, mixmag

手前のDJがJ0.ya

20年以上前に発表されたSASH!の曲は、お世辞にもエクアドルを正確に描写しているとは言い難い。しかし今も、2人のパーティでピアノのアルペジオが重要な役割を果たしている事実には、どこかアイロニーを感じてしまう。CruzとEljuriの音楽的なベクトルは、ニューヨークやロンドン、ベルリンに見られるような、エモーショナルかつ雑多で実験的な方面に向いている。けれども、ラテンアメリカの精神性とオープンマインドな態度こそが彼らの神髄である。ビジュアルアーティストのEljuriが空間をデザインし、DJは円形のブースでプレイ。J0.yaはこの街では数少ないトランスジェンダーのアーティストだ。今日、この手のドアポリシーは意図せぬ選民思想を生んでしまいがちだが、彼らのパーティでは無縁である。文字通り、“誰にでも”開かれた場所だ。

「偏見を持たずに来てくれよ。ここではLGBTとストレートが一緒に楽しめるんだ」。Cruzはそう説明する。

南アメリカのクラブシーンを考えたとき、以前までのエクアドルは経由地としか捉えられていなかった。ブラジルやアルゼンチンに向かう人が大半で、隣国のペルーやコロンビアと比較してもアピールポイントが少なかったように思われていた。しかしここ数年は、〈ZZK Records〉(アルゼンチン)や〈Multi Culti〉(カナダ)、〈Wonderwheel Recordings〉(アメリカ)などの民族性を強く押し出したレーベルの台頭によって、ラテンアメリカ全体に注目が集まっている。エクアドルのみに限っても、何百人もの若者がエクスペリメンタルで刺激的な音楽を制作しているのだ。

Nicola Cruzはこの国のブレイクアウト・スターだ。2019年にはニューヨーク・タイムズで「注目すべきアーティスト」に選ばれ、SónarWorldwideなどの世界的なフェスティバルにも出演し、日本ではフジロックMUTEK Japanに名を連ねている。彼の諸作品にはアンデスのルーツミュージックやアフロ・エクアドルが息づいており、楽器も土着的なものがピックアップされることが多い。2019年にリリースされた『Siku』では、インカの宗教儀式に用いられた同名のフルートが使用されている。

エクアドルの先住民族は豊かな文化を持っていた。10年前に独裁政権が終了して以来、Cruzは若者たちに植民地以前のルーツを緩やかに受け入れさせようと努力してきた。「かつてこの国は非常に人種差別的だったんだ。しかし音楽ならそれを飛び越えられる。素晴らしいよね」。彼のサウンドトラックは異例なほど人気を博し、今では地元のアーティストから毎週20曲ほどのトラックが彼のもとに送られてくるという。

エクアドルは地理的に孤立した場所にある。西側には太平洋が広がり、東側をアンデス山脈に貫かれている。キトがあるのもアンデスの中腹で、標高は2850メートルだ。しかしこの相対的な孤立こそが、この国の若者のオープンマインドな姿勢を育てているらしい。それにはQuixosis(エクアドル出身にして現在はベルリン在住のDJ / プロデューサー)も同意している。「規模の小さな国ですし、エクアドルはアーティストにとって難しい場所です」と彼は言う。けれども、それが良い方面に働くこともある。たとえば、外圧がかからないゆえにコマーシャルなポップスの魔の手から逃れることも容易いのだ。「あらゆる意味で、この国はメインストリームの外側にいますからね。そのおかげで『Despacito』やEDMのムーブメントからも逃れられました」。

また、Quixosisはこう続ける。「経済的なアドバンテージがないからこそ、僕らの音楽やアートは常に“本物”であることを強調してきたんです」。その上で、彼らの作品が明らかに先住民の文化とリンクしているのは興味深い。一方でMateo Kingmanは、このような繋がりは精神的なものでなく、自然の摂理によってなされていると語る。Kingmanはモダン・フォークグループのEVHAのフロントマンでありながら、ソロ名義でヒップホップ/エレクトロニックミュージックアクトとしても複数の作品をリリースし、アルバムが出た数日後にはLa IdealでDJギグを行うような人物だ。彼はアマゾンとアンデスが交わるマカス地方で生まれ、先住民に囲まれて日々を過ごしたが、もちろん『モーグリ: ジャングルの伝説』のような育ち方はしていない。

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「自然にこそ、私の仕事の本質はある」とKingmanは続ける。「エクアドルの音楽のほとんどが、マイナーペンタトニックスケールから来ているんだ。それが身体や自然と最も密接に結びついている音階なんだよ」。他方、Cruzは3枚目のアルバム(現在制作中)のレコーティングのためにガラパゴス諸島を訪れていた。「僕がどれだけ自然からインスピレーションを受けているかが、音楽に現れていると思うよ。自然の中には反復的なパターンがたくさんあって、それが有機的に結びついてゆく。テクノはその逆で、人工的で無機質なものなんだ。その対比が楽しいんだよね」。

また、興味深いのは、先住民側が音楽に求めているものは必ずしも“ルーツ”ではない点だ。Kingmanは「私の先住民の友達が私の音楽を好きでいてくれる理由は、現代的な要素があるからだ」と語る。我々がLa Sagrariaで出会ったアーティストはもうひとりいて、彼の名はMala Famaという。キト近郊の街・イバラの出身で彼の体には先住民の血が流れている。Cruzは彼をサポートアクトとしてニューヨークのショウに帯同させたことがあるが、アーティストとしてのキャラクターは若干異なるという。Famaいわく、「俺は音楽の許容範囲を広げたいんだよね。この間のLa SagrariaのギグではKylie MinoqueからKornへ繋ぐミックスにチャレンジしたんだけど、俺がやりたいのはそういうこと。そのときの客には不評だったけどな(笑)。とある女の子からDJ中に『この曲かけるのやめてくれない?』って言われたよ」。

SCENE REPORT, エクアドル クラブ, mixmag

コントラストを探求するという意味では、La SagrariaはCruzにとっても都合の良い場所である。彼のサウンドは「ポンチョ・テクノ」や「シャーマニック・ハウス」と冗談交じりに呼ばれ、アメリカやメキシコでは「Tulumites」と形容されている。実際、2019年のSónarで見られた彼のライブは、これまで以上にダークで実験的なものとなった。彼の人気を考えると、欧米に移り住んで活動することも容易にできる。しかし彼はキトにとどまり、ローカルにその経験を持ち帰る選択をした。ヨーロッパを中心に回るダンスミュージックシーンへ、鮮やかなカウンターを返す。

J0.yaもこの決断を支持している。彼女のパーティ「SinVergüenza」は、若いクィアとトランスのエクアドル人のために安全な空間を提供している。「多くの人が勉学のために海外へ渡りましたが、最近ではこの国へ戻って来るケースも増えています。今、彼ら彼女らはここで何かを実現したいと思っているのではないでしょうか」。

SCENE REPORT, エクアドル クラブ, mixmag

エクアドルのナイトライフにも多くの問題があるが、Cruzと彼の仲間はポジティブな未来を見つめている。2007年から2017年までエクアドルの大統領を務めたRafael Correa氏は、街全体に午前2時の外出禁止令を出していた。けれども、その規制は少しずつ解除されつつある。彼らはキトのナイトライフに焦点を当てた新しい市長に期待しており、Cruzはこう述べている。「変化は緩やかに始まっているよ。今はまだ本当に微々たるものだけどね」。

孤独は真の誠実さを育むのかもしれない。我々が取材に訪れた日の夕方、市中でワイン醸造家で出会った。彼は私たちが名を挙げたアーティストの名前をひとりも知らなかったが、話している間はずっと私たちに心を開いてくれていた。そして筆者は今も、彼がそのとき最後に言い放った一言が忘れられない。「私はワインのために庭を育てているのですが、そのためには何が必要なのかを見極めるのに何度も試行錯誤するんです。でも、それもプロセスの一部なんですよ。音楽も同じなんですね」。


WORDS: KATE HUTCHINSON
PHOTOGRAPHY: EDU LEON
EDIT: YUKI KAWASAKI

 

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