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Yoshinori Hayashi: 拡張を支える古典、ブリープとは何だったのか?

2021年、日本が誇る鬼才は90’sレイヴカルチャーに立ち返った。

Mixmag Japan | 11 January 2022

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昨年、ノルウェーのインディーレーベル〈Smalltown Supersound〉からアルバム『Pulse Of Defiance』をリリースし、国内外から高い評価を得たYoshinori Hayashi。彼いわく、「これまでの作品はリスニングにフォーカスした音楽とクラブミュージック的音楽が乖離していたが、本作では双方を一曲の中で統合させることに努めた」という。テクノやドラムンベース、レイヴ…。すなわちこのアルバムは、80年代後半~90年代前半のUKレイヴカルチャーへの憧憬を拠り所として制作されている。うごめく喧騒の奥で、怪しく明滅するブリープ。

彼がなぜこのタイミングで、あの頃のUKに立ち返ったのか。本稿では、昨年の最重要アルバムの話題を基軸にしながら、日本が誇る鬼才の真意に迫る。


― クラブミュージック的な側面とリスニングミュージック的な側面が『Pulse Of Defiance』の中では一致しているとのことですが、具体的な理由はありますか?

Yoshinori Hayashi(以下、Hayashi): 自分はいつまでクラブミュージックを作れるんだろうということは、ここ数年ずっと考えてますね。自分の内的な思考と、クラブミュージックの形成のされ方にどんどんギャップが生まれてて。その2つが完全に乖離する前に、作品としてコンパイルしておこうという意図はありました。僕はプロデューサーとして最も多感な20代のときに作品をリリースできなかったので、一番強烈なパッションをアウトプットできなかった実感があるんです。ギリ20代ってときに〈Going Good〉ってレーベルから出たのが、『終端イーピー』というEPだったんですけども、この作品は自分の中ではクラブミュージックではないと考えていて。だから、クラブミュージック的なパッションを持てているうちに、リスニングとフロア両方の側面を持った音源をリリースしたかったんです。

― そこでブリープが重要なリファレンスになっていると。ということは、そういう多感な時期とブリープ系のサウンドを好んで聴いていた時期が重なっていたということでしょうか?

Hayashi: まぁ今も聴いてるんですけどね。でも、より熱量を持って聴いていたのはその頃だと思います。ブリープの他にはブレイクビーツだったりアンビエントテクノ、Larry Heardの楽曲のようなUS産のハウスも聴いていました。総じて血圧の低い音ですね。

Yoshinori Hayashi – 「Luminescence」

― 『Uncountable Set』(2018年)や『Ambivalence』(2018年)もいまだによく聴きますが、この頃のHayashiさんの作品には『Pulse of Difiance』ほどのブリープ感はなかったように思います。

Hayashi: 『Uncountable Set』の1曲目なんかは割とブリープ感あると思ってるんですけど、確かに今作ほど意識的ではないですね。僕は〈GRAVITY GRAFFITI〉ってレーベルからもいくつか作品をリリースしてるんですが、そこで関わったDJたちの音源を聴いていると、ブリープが古典として認められている印象を受けるんです。ここ5年ぐらいで多くの人がジャンルとしてブリープを認識し始めている気がするんですよ。でも2018年ぐらいの頃は、それが本当に古典になりうるのか様子を伺っていた時期でもあるかもしれません。特定の誰かってわけじゃないんですが、僕が聴くミックスの中にもブリープの音が鳴ってるんですよ。だからまぁ、流行りっちゃ流行りでもあると思います。

― それを例えば、5年後ぐらいには作れなくなっている可能性があると。

Hayashi: シンプルに“かっこいい音楽”を作りたい意図があったんです。でもそういう感覚って、大人になるにつれて薄れてゆくものでもあると思うんですね。若いころに思う“かっこいい”と、大人になってからの“かっこいい”は意味合いが少し違ってくる気がしていて。大人の“かっこいい”は、もっと色んなものが含有されているというか。大人のかっこよさをクラブミュージックが持つことはあまり得策でない、気が晴れないことであるイメージがあるんです。で、僕にはまだその感覚が残っている。しかもまだフレッシュに。僕個人の欲望とシーンのトレンドが合致した今、それをアルバムという形で出したいと考えていました。

Yoshinori Hayashi – 「Shut Up」

― Leon VynehallやJoy Orbisonも昨年は内省的なベクトルで優れた作品をリリースしていましたが、Hayashiさんの場合は同じ内省でも少し毛色が違いそうですね。彼らはロックダウンが行われた結果、自己や家族と向き合ってアルバムを作った。Hayashiさんは“シーン”という他者の存在が見えます。

Hayashi: そうだと思います。僕が作るクラブミュージックはパンデミックに関係なく、そもそも暗くて内省的でしたから。でも今は、音の作りとしても外に向かってゆくサウンドを志向しています。鋭利でソリッドなニュアンスというか、もう少し外に出てゆく音作り。でもそれをはっきり考えたのは、『Pulse of Difiance』がリリースされて以降ですね。DJやメディアからフィードバックが返って来て、初めて明確に認識できた気がします。Pitchforkとかも本作のレビューを書いてくれましたけど、初めて「自分の作品が発表された」と感じています。これまでも自分の曲がかかる場面ってあったんですけど、ありがたいことに本作に至っては広く許容されている気がしますね。元々「外」への意識はありましたが、今作ほど自分の感知できる範囲外まで届いている実感をくれた作品はないです。

― Pitchforkのレビューは私も読みました。丁寧な論評でしたよね。

Hayashi: 本当にそう。全体的なブリープの流れはもちろん、Warpの初期リリースからの影響とかを絡めて論評してくれてました。それらはファースト(アルバム)のときには全然なかった動きで、個人的には面白く読ませてもらってましたね。で、そういったフィードバックを受けているうちに“なぜ自分は90年代の音楽に惹かれるのか?”に思い至ったんです。僕は90年代のクラブミュージックの音にフェチズムとして惹かれているだけなく、その音を人に聴かせようとする創意工夫が見えるから好きなんだってことに気付きました。

LFO – LFO (Official Video)

― Hayashiさんが考える“90年代”って限定的ですよね。2020年の11月に「Boiler Room Tokyo x Super Dommune」へ出演される際、Twitterで「私の人生を狂わせた89年から93年のハウス、ブリープ、レイヴのセットです」と仰っています。

Hayashi: 94年以降になるとサブジャンルもたくさん出てきて、音圧も少しずつ今に近づいてくるんですよ。踊るための機能性というか、ツールとしての側面にフォーカスされ始めるんですね。ダンスミュージックとしてフォーマットが出来上がってきたのがそれ以降だと思うんです。言い換えれば、93年までのブリープとかレイヴミュージックというのは、どこかプロトタイプ的だった。完成形を模索しながら、みんな試行錯誤していたように思うんです。だから、この時期の音楽って変なサウンドが多いんですよ(笑)。ハイハットが裏打ちだけじゃないとか、裏打ちのハイハットがそもそもなかったりとか。この時期のクラブミュージックには、クラブに踊りに来てるお客さんをむしろ滞らせてしまう奇妙さがある。その手の音楽は特にUK、それこそブリープに多いと思います。そして何より、完成された音楽はよりコマーシャルになってしまう。パワフルなサウンドがもたらす興奮が、いつの間にか体制側に回ってしまう。そういった現象に僕は疑問を感じているので、そこまで“行き切っていない”音楽に惹かれるんです。そういう意味で、創意工夫を続けることは自分の中で重要なポイント。僕は90年代のUKクラブシーンをリアルタイムで経験したわけではないので半分は想像ですが、みんな精神的に健康だったと思うんですね。アーティストもオーディエンスも、それから独立的でいられたというか。

― そのスタンスを今のシーンで貫こうとすると葛藤も多そうですね。まさに“プロトタイプ”の時期を過ぎてしまっている、という意味で。

Hayashi: そうですね。今のクラブシーンに身を置く上では、常に葛藤があります。少し前まではキックの音が重なっているだけで嫌でしたから(笑)。パワフルなサウンドは「即、悪」っていうふうに。ただ、そういう感情と向き合ってきたことで得られたものもあって、それが僕のDJやプロデュース面を拡張してくれていると思っています。

― UKガラージやダブステップなんかと比べて、ブリープが取り上げられる回数が少ないのって、やはりプロトタイプゆえなんですかね。商業化されにくいというか。

Hayashi: 地味ですから(笑)。“かっこいい”音楽の話じゃないですけど、ブリープのかっこ良さってイナたいし、圧倒される種類のものではないじゃないですか。僕自身、10代の頃に初めてブリープを聴いたときは“なんて退屈な音楽なんだ”って思いましたもん。ドラムンベースとかジャングルとか、あるいはアシッドハウスってずっと面白いんですよ。ライドするし、カットオフとレゾナンスでしゃくれるし、人間の話し言葉みたいな感じの音像なんです。そんな音楽、かっこ良くないわけがない。僕がブリープを理解できたのは、それらの音楽を通過した後なんですよね。この前Cabaret Voltaireのリチャード・H・カークが亡くなっちゃいましたけど、彼がいたSweet ExorcistやXONがブリープを介して音楽の実験性みたいなのを教えてくれました。あの内容でも、まぁあの内容だからだと思いますが、彼がクラブミュージックのアーティストとして歴史に名を残した事実には励まされます。音楽そのものに挑戦すれば人は聴いてくれる。ほんのちょっとですが、それは僕も『Pulse of Defiance』で実感できました。

― パイオニアであるリチャード・H・カークやNightmares on Waxは商業的にも成功しておりますが、Hayashiさんにとってそこは重要ではないですか?

Hayashi: いや、彼らのようになりたいですけどね。潔癖すぎるのも幼いと思っています。独立的でいることが重要で、お金を稼ぐことそのものが悪いことだとは考えてないです。各々が持っている社会的な正義を邪魔しないことが大切だと思っていまして、高潔な心を持った人たちが滅ぶべきではないと考えています。Nightmares on WaxもLuke Vibertも、あるいはSquarepusherやAphex Twinも、それぞれビッグネームですけど、いまだに体制側には回ってないように見えるんですね。僕がこれからどのような道を歩むにしても、そこは彼らと同じでありたい。

Yoshinori Hayashi – 「I believe in you」

― 今日お話を伺っていて、『Pulse of Defiance』は新たなスタートラインである印象を受けました。この流れで次回作も作れそうな勢いすら感じます。

Hayashi: 実際、構想はすでにありますね。何も手を付けてないですけど(笑)。まぁでも今はこんな状況なのでヴァイナルのプレス工場にも遅れが出てますから、ゆっくりやろうと思います。とはいえ、コロナ禍に入ってから曲を作りまくってたので、ストックも結構あるんですよ。コンピで出す予定の楽曲を含めれば8タイトルぐらいあるんじゃないかな。もし今年すべて予定通りにリリースが行われれば、毎月何かしらの音源を出してると思います。あと、今年は自分のギグにLive Setも取り入れてみたい。やりたいことはたくさんありますね。


Interview_Yuki Kawasaki

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