
今や世界を虜にしたダンスミュージック。DJという魔法使いたちによってミックスされていくサウンドは、ダンスフロアにいる人々を、いろんな旅へと連れていってくれる。ダンスミュージックが持つアイデンティティ。そんなことを音楽を通じて教えてくれる、DJという伝道師を紹介したいと思います。第2回目は、シカゴ、ジュークをメインに、オリジリナル且つ、オリジナルなDJプレイでフロアを熱くさせる、DJ Fulltono(フルトノ)が登場。辿ってきた音楽の歴史と、シカゴ、ジュークについて話を聞いてみた。
BPM160は常日頃。シカゴゲットーからジュークまで、
シカゴ・カルチャーを伝道する
Fulltono: 言うのもベタなんですけど、電子系は、電気グルーヴや、石野卓球がきっかけでテクノを好きになりました。でも当時は周りにテクノ好きなんていなくて、どこで曲を買ったらいいのかわからず、CD屋に探しにいったんですけど、それでもずっとわからなくて。1993年前後で高校1年のときだったんですけど、その頃は「タワーレコード」しか知らなくて、クラフトワークくらいしか置いていなかったんです。2年くらいわからない状態だった中で、高校2年くらいですかね、京都に「ヴァージン・メガストアーズ」があることを知り、そこにがっつりテクノコーナーがあって……そこから始まりましたね。
―その頃はテクノは認知されていたんですね。
Fulltono: その「ヴァージン・メガストアーズ」に、『ele-king』の創刊号が置いてあったんですよ。12インチサイズの、Derick Mayが表紙の。そこからです、いろいろと掘り出したのは。
―その頃からDJを意識し始めましたか?
Fulltono: DJをやりたいとは思ったけど、まだ高校生だったんで機材を買えず。「クラブ」という情報は知ってはいたんですけど、DJが何をしているのか全然知らなかったし、12インチというものがあることすらも知らなかった。最初はTB-303などの機材に興味を持ちました。だけどTB-303が欲しくても売っていなかったから、303に似た音が出るということで「Novation」のBase Stationというアナログシンセを買って、それを学校に持っていって音を出していたという。今考えると、それだけを買ってどうやって音を作ろうと思ってたのかなって感じですけど。バンドにその機材で参加をしたり、ミニサンプラーみたいなのを買って遊んでみたり。あと、CDラジカセを学校に2台持っていって、DJ風にCDを流したりしていましたね。それで、『remix』の英語で書いてるマンスリースケジュールを頼りに「ホンマにやってるんかな」とおそるおそる初めて行ったクラブが、大阪の〈クラブロケッツ〉でした。そのときに田中フミヤと、ゲストでKEN ISHIIがプレイをしていて、それが初めてのクラブ体験でしたね。だけど、最初は何が楽しいのかわからず、とりあえず”浴びている”っていうか。
―まず、浴びる……テクノならではの洗礼ですね(笑)。
Fulltono: ずーっと。そのときはパーティというよりは、音が大きいから何がかかっていても同じように聴こえてしまって。今思えば、その頃はアシッド・リバイバル期で、アシッド・テクノみたいなのがたくさんかかっていた時期だったんですね。で、TB-303のアシッド音が入ると盛り上がるみたいな。あと、トリップホップとかも流行っていたので、前半はブレイクビーツから始まって、徐々にテクノへって感じの流れで。
―トリップホップは聴いていたんですか?
Fulltono: The Chemical Brothersがデビューした頃の作品は聴いていました。デジロックとか言われ始める前ですね。あとは、Depth ChargeやThe Saber Of Paradiseなど、雑誌に勧められるままに聴いていました。
変化なしでくたびれて、待ちぼうけていたら、DJ Funkの「Pump It」がかかって。
そのとき衝撃がすごくて、未だに引きずっている。
Fulltono: ターンテーブルを買えたのが、高校を卒業してアルバイトをするようになってからですね。TechnicsのSL-1200 MRK3、黒いヤツです。セットで14万円くらいしたかな。ダンボールの上に置いて座ってDJ練習してました。90年代の大阪や京都のあたりでは、田中フミヤさんか、Kihira Naokiさんの二強という感じでしたが、僕はまだその頃はキヒラさんを体験していなかったので、DJの基礎や基本的な考えは、フミヤさんのDJがお手本でしたね。フミヤさんのDJは、音に身を委ねながら変化を待つ、という感じなんです。ハードでこのまま終わるのかと思いきや、デトロイトテクノがかかって盛り上がったり、ずっと待たされて、変化なしでそのまま朝までということもあったし(笑)。変化なしでくたびれて「いつくるんやろ」って待っていたら、朝方にDJ Funkの「Pump It」がかかって。その衝撃がすごくて、未だに引きずっている感じです。
―待たされたあげくの果てに「Pump It」とは、ドッカン! ですね。
Fulltono: 本当にそうでしたね。そのときはシカゴハウスとか知らなかったので「あの曲は一体何だったんだろう!?」って。だけど知っている友達とかおらへんで、それでソ二ーから出たミックスCD(ミックス・アップ Vol.4 田中フミヤ)を聴いて、「あの時の曲だ!」ってなって。そこからトラックリスト見ながらシカゴハウスを掘り始めました。
―初めて聴いたとき、どれくらい衝撃を受けたか覚えていますか?
Fulltono: なんて言ったらいいのかな。実際にやったんですけど、手に持っていてペットポトルを、フロアに水がなくなるまで振り回していた(笑)。
―シカゴ系も、幅が広いイメージがあります。ファンクなどのゲットー系から、グリーン・ベールベットの〈Relief〉、フランキー・ナックルズのウエアハウス、ディスコやヒップハウスなんかもあったような。
Fulltono: ハウスのパーティには行っていなかったので、ディスコからの流れの初期シカゴハウスは当時は知る由もなく、テクノとしてシカゴハウスを聴いていました。Paul Jhonson、Robert Armani、DJ Rush、そのあたりは特に好きでしたね。ビートがスイングしているというか、その感じが良かったんです。DJ Rushはスイングの極みのようなビートで、Paul Johnsonはそこにグルーブが加わっているような感じだったり。あと、Louis Bell。Louis BellはPaul Johnsonと、2 Men On Waxという名義でリリースしてて、それが最高でした。あと、Green Velvetの〈Relief〉周辺も好きで、Trackhead Steveが最高でした。そのあたりから、ビートに特化している人たちばかりをチェックしはじめました。その頃にチェックしていたのは、1993年~1996年あたりの、ちょうどシカゴハウス第二世代の人たちが曲をどんどんリリースしていた時期のものです。

曲単体では意味が分からない曲でも、似たような曲を連発することで新しい意味が生まれるんです。
―DJのスキルはどのように磨いて行ったんですか?
Fulltono: DJの知り合いやクラブ友達もいなかったので、MIX CDを聴いて独学です。Jeff Millsのプレイのように次々にかける感じに憧れて、ずっと練習をしていました。
―DJをするとき、どのように曲を捉えてミックスしていますか? スキルが高いので、Fulltonoさんをバトル系のDJ出身なのかと勘違いしたことがありました(笑)。
Fulltono: 語弊があるかもしれませんが、あまりかっこいい曲をかけ過ぎないようにしています。DJより曲のインパクトが勝ってしまうからなんですけど、曲として捉えず、この4曲で1曲みたいな感じで似たような曲をあらかじめ細かく仕分けておいて、それを連発して4~5分を作る感じですね。それが終わりがけになってくるとまた次のことを考える。曲単体では意味が分からない曲でも、似たような曲を連発することで新しい意味が生まれるんです。だからあまり曲に展開がある曲はミックスするときにかけにくくなってしまうので、なるべくシンプルな曲を主に使うことが多いですね。バトル系の DJを目指したことはないんですが、DJ Godfatherの2枚使いやジャグリングの影響はめちゃくちゃ受けました。僕にとってのDJの四天王は、Fumiya Tanaka、Jeff Mills、DJ Godfather、Traxman、この4人です。
―ところで、DJ HONDAのTシャツを着ている理由は何かあるんですか(笑)。
Fulltono: あえて今着たら面白いかなと思って。でも着るのであれば、ちゃんと音楽を聴いておこうと思って、今更なんですが、曲を聴いたり、ドキュメンタリーを観たりしてたら普通にファンになってしまいました。最近また勢力的に活動されていますよね。
―そういうことだったんですね。ジョークが本気になってしまったという感じですね。
Fulltono: この間、ポーランドのヴロツワフでトークショーに出たとき、誰もわからないと思ってDJ HONDAのTシャツを着ていたら、お客さんから質問で、「さっきからテクノに影響を受けてきたと言っているけど、TシャツはDJ HONDAなんですね」と突っ込まれたんです。そしたら、「DJ HONDAは、この街にもDJをしにきたことがある」って世界各地で有名だということをポーランド人に教えてもらうという(笑)。
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